活動報告

【第2回オンライン研究会】業界の発展を考えた創造と革新がコロナをチャンスに変える(登壇者:1699年創業/株式会社にんべん)

2020年9月8日

2020年8月19日(水)、第2回オンライン研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1699年創業で、日本橋を代表する100年企業である株式会社にんべんの代表取締役社長の高津伊兵衛氏(13代目)をお迎えし、にんべんが320年続いてきた長寿経営の秘訣やコロナ禍の対応などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。


登壇者の紹介

今回の登壇者である高津社長の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
株式会社にんべん
代表取締役社長
高津伊兵衛(13代目)
青山学院大学卒業後、1993年に株式会社高島屋横浜店入社。
1996年に高島屋を退社して株式会社にんべん入社。
商品部、営業部、総務部、副社長などを経て、2009年4月に代表取締役社長に就任。


第1部:トークセッション(株式会社にんべん 代表取締役社長 高津伊兵衛 氏 × 後藤代表理事)

今回のトークセッションでは、にんべんの歴史を振り返りながら、「創造と革新」「長寿経営の秘訣」、「コロナ禍での対応」、「襲名」などについて高津社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

ポイント
1.”新商品と新発売による創造と革新”でリスクに対応し、危機をチャンスに変える
2. 自社の利益だけでなく”業界全体の発展を願う姿勢”が信用・信頼を生み、長寿経営へと繋がる
3.コロナ禍の企業経営と100年企業でよく見られる襲名について

1.”新商品と新発売による創造と革新”でリスクに対応し、危機をチャンスに変える

にんべんは創業から321年続けてられてきた中で、踏み倒しや打ちこわし、関東大震災などのさまざまな苦難がありました。
そこで、苦難を乗り越え今日まで長寿経営を持続できているのには、以下のような創造と革新があったからではないかと高津社長は話します。

①現金掛け値なし(新発売)
→掛売りではなく小さい単価で小売りにした結果、その場で現金を頂戴するので踏み倒しがなくなり、掛売りに伴う手数料などもなくなるので良質廉価を実現。
②商品券(新発売)
→季節商品である鰹節を1年中流通できるようにし、代金を前受けすることによってキャッシュフローが潤沢に。
③小箱節、本枯鰹節(新商品)
→これまでは大名だけであったのが小箱節によって多くのお客様に販売することが可能となり、また本枯鰹節によってさらなる品質の向上と江戸食文化の形成に一助。
④つゆの素(新商品)
→初めて鰹節の出汁をつゆの中に入れて密封充填した商品。汎用性が高く、50年以上のロングセラーで、現在の主力商品に。
⑤フレッシュパック(新商品)
→業界初、小分けでエコ袋に窒素ガスを充填して鰹節を密封包装した商品。鰹節の鮮度を保ち、簡便・削りたて・使い切りでこちらも現在の主力商品に。

このような新商品や新発売などによる創造と革新によって、良品廉価で1年中流通できるようになり、品質を担保しながら様々な料理に活用できるようになっています。
それゆえ、より多くのお客様に支持され、厳しい時代も乗り越えるきっかけになりました。

2.自社の利益だけでなく”業界全体の発展を願う姿勢”が信用・信頼を生み、長寿経営へと繋がる

にんべんには自社の利益だけでなく、業界の発展に対しても大きく貢献されています。
例えば、上記で紹介した新商品のフレッシュパックという技術革新を生み出したときにはその製法を業界に公開し、また、12代の頃に鰹節の優良カビを特定した際も日本鰹節協会推奨黴菌として業界に広く使ってもらうために先代が無償提供し、今では鰹節業界でこの黴が標準化されています。
このような業界への貢献について、「一社だけが良くても他の鰹節の品質が非常に悪ければお客様からの信用を失ってしまう」という思いから、業界全体の品質の底上げや発展を願っていたという先代の考えが反映されているようです。
また、これより前の、4代目の時、江戸の街が変わって商人の貧富の差が大きくなり打ちこわしなどがあった際にも、町人が主体となってセーフティネットをつくり、米蔵をつくり備蓄したり物流やインフラを整えたりなど行なって貧しい人を助けるという歴史もありました。
町人主体のセーフティネットをつくったことに関しては当時の高津伊兵衛氏が考えた商いをする心構えを記した『福壽録』という書物にも、以下のような文章で残されています。

「富が人々より優れば人は必ず憎む。情に通じ足るをしることが富である。」

すべての人とともに社会が良くなり、顧客やその地元地域など業界関係者とともにずっと歩んでいくという姿勢が代々受け継がれており、業界や地域社会への貢献が信用・信頼を生み、長寿経営へとつながります。

3.コロナ禍の企業経営と、100年企業でよく見られる襲名について

それから襲名とコロナ禍での対応についてもお話しいただきました。
まず襲名について、高津社長はすでに家庭裁判所に申し立てを行い、戸籍等を提出し許可を得て、今年2月に襲名されております。
先代が襲名していなかったり、あいだが抜けていたりすると許可が出ないこともあるそうですが、にんべんの場合は代々襲名を続けてきたので比較的簡単に認めていただけたと仰っていました。
その他、個人の戸籍や年金、パスポートなどにも氏名変更届け出が必要で、法人のものにおける手続きもいくつか必要になるということもご紹介いただきました。

そして、新型コロナウイルスの影響に関しては、過去にも同様にはしかや天然痘などの疫病があったということが3・4代目の日記を復刻した書物から確認することができ、当時も今の新型コロナウイルスのように治療法がなく死が身近であったという歴史もご紹介いただきました。
こういった歴史を振り返りながら、コロナ禍で大切な3つのこととして「潤沢なキャッシュフロー」「外食が厳しくなって内食が多くなりつつあるお客様にどのように新しいアプローチをしていくか」「安心と安全を担保すること」をお話しいただきました。


第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

会員発表では、当機構参与でアイアルマーズ株式会社代表取締役の堀部直紀様より、「株式会社にんべんの、社会変動の中でイノベーションを起こしてきた歴史を知ることができて非常に学びになりました。長寿企業は自社の歴史を脈々と受け継いでおり、自社の歴史を知っている社員が多ければ多いほど誇りややりがい、変化に対する強さに比例すると感じます。100年経営研究機構のように長寿企業の歴史や革新を学ぶことで、企業が変わっていくための勇気をもらったり、共通の歴史を学ぶことで大きな力となります。学びながらいかに企業が永続していくのかを知ることが次の未来を作っていくと感じました。」と、今回の勉強会に対する感想をお話しいただきました。

最後に後藤先生より、「せっかくお金をかけて作った技術を無償で業界に公開したという事実を我々が学び、世の中にその事実を知らしめていく必要がある。これこそがコロナ禍においてもみんなで結束して長く続けていくための一番のこころなのではないか。」と総括いただき、今回の研究会は終了いたしました。


次回は9月9日に、1895年創業の株式会社人形町今半、取締役副社長の高岡哲郎氏にご登壇いただきます。