活動報告

第23回研究会「100年企業が実践するSDGs」

2019年12月16日

2019年12月6日(金)、第23回研究会『100年企業が実践するSDGs』を開催しました。今回の講義では、株式会社大川印刷6代目社長 大川哲郎さんを講師に迎え、大川印刷がソーシャルプリンティングカンパニー®を目指す理由や具体的なSDGsの取り組み、それに対する成果などをお話しいただきました。


苦難を糧に、社会貢献への情熱を燃やす
大川印刷は1881年(明治14年)創業。現社長の曾祖父である大川源次郎氏が開業し、130年以上にわたり印刷業を継続しています。従業員は40名程度。近年SDGsを実践する企業として各界に名を響かせています。
大川社長は「余裕がないからこそCSR・SDGsに取り組んできた」と言います。バブル崩壊直後どんどん売上が落ちていくなか、丁稚奉公から家業へ戻った大川社長は様々な改善を行いますが上手くいかず、退職者も多く出してしまったそうです。また印刷物が安価な海外へ流れてしまう苦しい時代に突入し、どうすれば良いかと悩んだ末に、環境経営に舵を切りました。

大川印刷の歴史は苦難の連続とも言えます。日清・日露戦争を経験し、戦争で土地を失い、そこから這い上がって現在があります。また近代ではお父様である4代目社長を医療ミスで唐突に亡くしてしまうという大きな事件も起こりました。
その際は会社が大混乱に陥り、大川社長自身は大学入学を控えていた時期でもあり「もしかしたら大学へ行かずに働きに出てほしいと言われるかもしれない」と考えたそうです。親族で急遽会議が行われ、お母様が専業主婦から5代目社長に就任することで一旦の収束を見ましたが、その当時の衝撃と苦労は想像を絶したことでしょう。また大川社長自身は成功率97%と言われる手術のミスでお父様を亡くしてしまったことで人間不信に陥ってしまいました。
人間不信で卑屈になった大川社長を奮い立たせたのは、大学時代に訪れたアメリカ南部で目の当たりにした黒人に対する人種差別でした。卑屈になっていた自身を恥じるほどに現実の虐待はひどく、自分にはまだ“生きる力”があることを思い知らされたそうです。この経験が「理不尽な人達への貢献」ひいては「社会・世界への貢献」に対して情熱を燃やすきっかけになったと大川社長は語りました。


SDGsは損得ではない。経営を持続させるためにも取り組むのは当然のこと
四苦八苦を繰り返しながら、ソーシャルプリンティングカンパニー®へ舵を切った大川印刷では、SDGs達成に向けた様々な実践を行っています。特に今年4月には初期投資無用の太陽光パネルの設置を終え、再生可能エネルギー100%を達成しました。大川印刷では業務に使用する電力の20%を太陽光、80%を川崎のバイオマス発電による電力/青森県横浜町の風力発電による電力でまかなっています。
また社員や社員の家族に対する教育にも力をいれており、会社の業務とは異なる場でプロジェクトチームを作り、それぞれのチームごとにSDGsへの貢献活動を1年単位で行う取り組みを実施しています。プロジェクトチームの活動では、パートさんやそのお子さんに対する勉強会を開催し、森林認証材の取り組みなどを伝えています。
「子供でもモノを買う時に選ぶことで森林破壊を減らすことができる」というメッセージを伝えたことで、「子供の行動が変わった」「大川印刷で働くことに誇りを持つようになった」という声が多く寄せられており、社員の帰属意識向上にもつながっています。

また、大川社長が自社の取り組みを共有する場などで、最近では「SDGsに取り組むと“得”ですか?」ということをよく聞かれるそうです。それに対して大川社長は「損得のレベルではない」と回答します。経営の持続可能性を真剣に考えたときSDGsに取り組むことは当たり前のこと、というのが大川社長の考えです。地球に暮らしている私たち人間一人ひとりが行動を変えていかなければ、世界環境はどんどん崩れてしまう。つまり損得のレベルではないのです。ただし、実践してみた結果言えることは「全く損はない」ということです。

大川社長からは「未来に対して、子どもたちに責任を押し付けるのではなく、今を生きる私たちが責任を持つことが肝要」という力強いメッセージをいただき、参加者の皆様も今後の行動を考え直す素晴らしい機会となりました。

研究会修了後は忘年会を兼ねた懇親会を行い、講師、理事、会員、参加者それぞれが交流を深め意見交換を行いました。


次回の研究会は2020年2月7日(金)の開催を予定しております。概要が決まり次第お知らせいたしますのでお待ちください。