活動報告

【第5回オンライン研究会】忍ぶ時間に勝機あり。危機的状況を好機と捉え売上アップに繋げた一條旅館(登壇者:1428年創業/合資会社一條旅館)

2020年10月13日

2020年9月30日(水)、第5回オンライン研究会を開催しました。
NPO法人FBNとの共催企画となった今回の研究会では、宮城県白石市にて1428年から老舗旅館を営む、合資会社一條旅館から代表社員の一條一平氏をお迎えし、一條旅館が創業から600年間続いてきた要因や、東日本大震災時や新型コロナウイルス禍における対応についてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事を務める日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

登壇者の紹介

今回の登壇者である一條一平 代表社員の経歴からご紹介いたします。

<登壇者プロフィール>
合資会社一條旅館
代表社員
一條一平(20代目)
1969年生まれ。1989年にホテルワトソンでのフロント勤務、1996年にホテルインターコンチネンタルでのフロント・コンシェルジュを経験後、1999年に合資会社一條旅館に常務として入社。19代目の急逝により、2003年に20代目として代表社員就任。2014年に幼名一條達哉から一條一平に改名。(一條家は代々“一平”を襲名)

第1部:トークセッション(合資会社一条旅館代表社員 一條一平 氏 × 後藤俊夫代表理事)

今回のトークセッションでは、一条旅館が運営する「時音の宿 湯主一條」の紹介から、「時音の宿 湯主一條」に大きな影響を与えた東日本大震災と新型コロナウイルス禍での経験について一條一平 代表社員よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

ポイント
1.ピンチはチャンス、忍ぶ時間に勝機あり
2.地域との共生、地域ともに盛り上がる

1.ピンチはチャンス、忍ぶ時間に勝機あり

宮城県にて旅館業を営む一條旅館は、東日本大震災の影響や新型コロナウイルスの影響を非常に強く受けました。
しかし、危機的な災害時に「ピンチはチャンスである」「忍ぶ時間に勝機がある」という考えを持って取り組んだ結果、強いブランド力を生み出すことに繋がっています。

東日本大震災時の取り組み
・施設全体の大掃除
・大規模な施設改修工事
・徹底的な社員研修
売り上げが立たず苦しい状況であったにも関わらず、人件費や施設改修費に大規模な投資をかけたのは、このピンチに耐え忍んでより良い旅館にするという思いがあったからこそ出来たことです。
その結果、営業を再開した際には、旅館やサービスの質が向上し、客室稼働率が95%以上、昨年対比と比べても同等の売り上げを記録することになりました。
また、42日間の休業があったからこそ、社員同士の交流する時間が増え、絆が深まり、お客様のことをそれまで以上に考える良い機会になっています。

新柄コロナウイルス禍の取り組み
・グループ客を捨て個人客に特化
・安心安全のための値上げ、信用力の向上
・リピーター増加のための顧客との関係性構築
新型コロナウイルス禍においては42日間の休業がありましたが、一條旅館では、東日本大震災時に行っていた大掃除や社員研修に加えて上述のことに特に注力しました。
値上げに関しては、安心安全を届けるための設備投資に伴う値上げでありますが、値下げをして集客をする他の旅館との差別化にも繋がり、一條旅館のブランドの向上にも繋がっています。
4月と5月の休業中に上述の取り組みを行ってきた結果、6月には回復基調になり、7月からは昨年対比100%超えの予約を記録している真只中です。
注目したいのは宮城県や東北地方からのお客様比率が非常に高いことであり、これはリピーター増加のために取り組んできた結果が顕著に現れています。
休業をしなくてはならないではなくて、「休業をするからこそ手の届かなかったことに手をつけられる」、このような思いや考えがピンチをチャンスに変えられる要因と言えます。

2.地域との共生、地域とともに盛り上がる

「鎌先のことを考えることが一條家の務め」
一條代表社員のお父様が常日頃から仰っていたという「鎌先のための一條家」という考えを元に、今後のテーマとして「鎌先を昔に戻す」ということを新たに掲げました。
鎌先を取り戻すという言葉の真意は、昔のように歪みあうことのない統制の取れた地域社会を取り戻すということだそうです。
実際、一條旅館の料理長に優れた技術を持つ方に就任いただいたのも、地域の調理師会との繋がりが強かったからこそ派遣をしてもらえたと一條代表社員は仰います。
宿の経営者と料理を司る調理長との関係は難しくなってしまうケースも少なくないようですが、現在の一條旅館では、調理場の仕切り役など一切を料理長に任せられ、一條代表社員は厨房にはなんの心配もないという状態になっています。

また現在、一條代表社員は地元首長の後援会長も務めているということもあり、多くの地域情報が入るそうで、多様な視点からの情報を生かして地域をどのようにして盛り上げるかも常に考えられています。


第2部:質疑応答・総括

会員発表として、M&A仲介会社である株式会社ストライクの久米氏より、今回の研究会での学びについて発表していただきました。
久米氏はM&A仲介をお仕事とされているため、多くの中小企業の方々との接点があり、本日の研究会でも学んだことや感じたことは多かったようです。
その中でも、「地域の方々に支えられて長く続けてこられた」という話は、他の長寿企業経営者からも聞く内容だったそうで、今後のお仕事で「地域や従業員の思いをつなぐ」ことをより強く意識して、少しでも長く続く企業が増えるお手伝いがしたいと仰っていました。

最後に、後藤俊夫代表理事より、
・ファミリービジネスは地域があってのビジネス
・地域で生まれた事業が地域に支えられ、長く続けば名家名主となっていく
・他の多くの長寿企業を見ても地域との関係性は密なことが多い
という総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。


次回は10月15日に、718年創業の法師旅館の46代目ご当主である法師善五郎氏にご登壇いただきます。