【第15回100年経営研究会】量の経営、質の経営を経て想いの経営の時代へと変遷。 (登壇者:室町時代創業/株式会社糀屋三左衛門)
2021年4月30日
今回の研究会では、室町時代に創業され長年の歴史を持つ株式会社糀屋三左衛門から代表取締役社長の村井裕一郎氏をお迎えし、糀屋三左衛門の長寿の秘訣についてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事を務める後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である村井社長の経歴からご紹介いたします。<登壇者プロフィール>
株式会社糀屋三左衛門
代表取締役社長
村井裕一郎
1979年、愛知県豊橋市で生まれる。2002年に慶應義塾大学経済学部を卒業、2004年には同大学環境情報学部を卒業し、2006年にアメリカ国際経営大学院にてMBAを取得。大学院卒業後は家業である株式会社ビオック(糀屋三左衛門)に入社し、「発酵」のプロとしてのキャリアを重ね、一般向けの情報発信やセミナー活動を行う。
また家業のリブランディングに着手し、「麹」の新市場を開拓。2016年に第29代当主に就任し現在に至る。
第1部:トークセッション(株式会社糀屋三左衛門 代表取締役社長 村井裕一郎 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「糀屋三左衛門の経緯と歴史」と「100年経営の秘訣」、「新たな挑戦」について村井社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。ポイント
1. 量の時代から質の時代へ、質の時代から想いの時代へ
2. 新しいチャレンジは小さく始める。中小企業にとって重要なリスクマネジメント
3. 麹の可能性は無限大。麹屋三左衛門が見据える麹の将来
1. 量の時代から質の時代へ、質の時代から想いの時代へ
27代目である村井豊三名誉会長が経営に関与した1965年から1992年の間、日本の経済成長率は平均して6.9%という高水準での経済成長を誇っており、28 代目の村井總一郎会長が経営に関わった1977年から2016年の間は平均して2.6%の経済成長を誇っていました。27代目の代は高度経済成長期だったため、作れば作るほど消費される「量の時代」であったこと、そして28代目の代では、製品一つ一つの質が高まり正解の技術が完全に生み出された「質の時代」であったことが、日本が高い経済成長率を誇った要因と言えるでしょう。
現当主の村井社長は2006年以降を「想いの時代」であると考え、量や質での差別化ではなく、いかに会社として商品としてのストーリーを共感してもらえるかが重要であると捉え、麹や人など様々なものの「可能性を引き出す」ための経営をされています。
2. 新しいチャレンジは小さく始める。中小企業にとって重要なリスクマネジメント
「新しいチャレンジを成功に導く鍵は何か」というセッションにおいては、村井社長から「小さく始めることが重要」という話がありました。小さく始めれば失敗したときの傷は少なく済むため、再度新たなチャレンジに取り掛かることができる。これを何度も続けてきた結果、麹屋三左衛門が長年にわたって経営を続けることができ、数々の事業を成功に導いてこられたと考えられます。
取り巻く環境の変化、トレンドにアンテナを張ることは重要なことの一つですが、長寿企業の多くが小規模経営である背景には、大きなリスクを伴ったチャレンジをするのではなく、リスクをしっかり管理したうえで継続的なチャレンジを行うことが非常に大切なことだということが分かります。
3. 麹の可能性は無限大。麹屋三左衛門が見据える麹の将来とは
現状解明されている麹は未だ30種類程度しかありませんが、種類としては数百・数千にものぼる数の麹があると推定されており、食以外にも薬品や土壌改良、化粧品、プラスチックの分解など様々な分野に応用できる可能性がある菌と言われています。麹屋三左衛門では麹の入り口の広さと奥深さを追求することで「麹道」を形成できると考えており、現在は約60万人もの人々が麹作りに親しめる環境を創出するべく麹普及事業を進行しておられます。
この「麹道」を実現することができれば麹の初心者が足を踏み入れやすくなることはもちろん、こだわりのある上級者がより麹の奥深さを追求できる環境が整えられ、麹市場全体の広がりにも繋がっていくと考えられます。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
会員発表では株式会社SACCO代表取締役の加藤俊氏より、「今回ご講演いただいた量の時代、質の時代、想いの時代への変遷は、今トレンドになりつつあるSX(サステナブル・トランスフォーメーション)そのものではないかと感じた」との感想をいただきました。最後に後藤先生より、「100年以上続く企業は伝統を守り続ける企業と、新しいものにチャレンジする企業とに分かれる。麹屋三左衛門は後者に属す企業であり、会社を継続させつつもいかに新しいものにチャレンジできるか、麹の可能性を引き出していけるかを考え行動してきたというのが今回の内容だった」と総括いただき、今回のオンライン研究会は終了いたしました。
次回は3月10日に、1596年創業の有限会社丁子屋、取締役社長の柴山広行氏にご登壇いただきます。