【第22回100年経営研究会】「共存共栄」をキーワードに地域全体で浴衣の似合うまちづくりを(登壇者:717年創業/株式会社古まん)
2021年6月20日
今回の研究会では、717年に創業された株式会社古まんの代表取締役社長を務める日生下民夫氏をお迎えし、「株式会社古まんの1000年企業の要因や城崎温泉としての発展に関する取り組み」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である日生下社長の経歴からご紹介いたします。<登壇者プロフィール>
株式会社古まん
代表取締役社長(22代目) / 城崎温泉旅館協同組合理事長
日生下 民夫
昭和44年3月12日生まれ。平成3年に近畿大学法学部を卒業し、平成4年に東京YMCA国際ホテル専門学校ホテル専攻科程修了。平成4年株式会社中の坊入社後、約2年間従事し平成6年に退社。
そして同年に株式会社古まん入社・取締役に就任。平成23年、同社代表取締役社長に就任し、現在に至る。
その他、城崎温泉観光協会副会長、兵庫県旅館ホテル生活衛生同業組合副理事長を務める。
第1部:トークセッション(株式会社古まん 代表取締役社長 日生下民夫 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「株式会社古まんの1000年企業の要因や城崎温泉としての発展に関する取り組み」などについて日生下社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。ポイント
1. 歴史、文学そして外湯のまち『城崎温泉』
2. 街全体を襲った北但大震災。“共存共栄”をキーワードに災害に強いまちへ
3. 温泉街自体が1つの旅館。地域全体で浴衣の似合うまちづくりを
1. 歴史、文学そして外湯のまち『城崎温泉』
株式会社古まんの代表取締役社長であり、城崎温泉旅館協同組合理事長も務められている日生下社長ですが、城崎温泉の特徴は歴史・文学・外湯の3つであると冒頭で述べられました。城崎には、今年で創業1304年を迎え世界で4番目の長寿企業である古まんを筆頭に、旅館に限らず様々な業態で多くの老舗が残っており、城崎温泉や古まんの歴史については『曼荼羅記』『日生下氏家寶旧記』という文献にも古くから記録されています。
文学については、『城の崎にて』を執筆した白樺派の文豪・志賀直哉氏や歌人・与謝野晶子氏など、城崎は多くの文人に愛された湯治場としても有名です。
そして城崎温泉には7つもの外湯があり、この外湯めぐりが城崎の名物ともなっています。
そのため、お客様は旅館に着いたら浴衣を着て街を歩くという、全国でも数少ない“浴衣を着て歩ける温泉街”として、他の温泉地とは違った価値観を生み出しています。
上記の3つの特徴から、読売新聞や週刊文春、小学館『サライ』など多数のメディアにも掲載されており、こうしたメディアを見たことがきっかけで城崎や旅館の歴史に興味を持って訪れる観光客の方が多くいます。
2. 街全体を襲った北但大震災。“共存共栄”をキーワードに災害に強いまちへ
古まんは、山梨県にある西山温泉「慶雲館」、石川県にある粟津温泉「善吾楼 法師旅館」と並んで長い歴史のある旅館ですが、これまでに大きな危機を迎えたこともありました。その一つが北但大震災であり、この震災によって家屋は倒壊し大火事が発生、その結果、町内の人とこの時に訪れていたお客様を合わせると300名以上もの死者を出すほどの被害となり、温泉街全体が壊滅状態となりました。
それでも「共存共栄」をキーワードにして、子どもたちのための学校と地域の資源である温泉の復旧を第一優先として町民一丸となって復旧活動が行われ、地震発生から1ヶ月後にはテントを利用して学校の授業や温泉が再開されます。
また、復興に関しては町民が1割程度無償で土地を提供し、川幅や道幅を広げ、街の要所に鉄筋の建物を配置するなど、以前の景観を守ることにも配慮しながら近代的な災害に強いまちづくりが行われました。
3. 温泉街自体が1つの旅館。地域全体で浴衣の似合うまちづくりを
城崎温泉では“温泉街自体が1つの旅館である”という考え方をもとに、まちづくりが行われている点についてもお話しいただきました。城崎温泉では駅が玄関、道路は廊下、旅館は部屋、外湯が大浴場、お土産物店が売店といったイメージでまちづくりが進められており、こうしたお客様がめぐりやすいまちづくりが、現在の浴衣の似合うまちづくりに繋がっています。
このようにまちぐるみでの取り組みが進められている経緯には「北但大震災」と「外湯主義」の2つが関係しています。
外湯主義に関しては、城崎温泉では温泉が地域の貴重な資源となっており、例えば全員が競って温泉を掘ってしまうと資源の減少や温度の低下といった弊害が起こりうるため、内湯を作らず地域全体で温泉という資源を共有するといった考え方が根付いています。
そして今回のコロナウイルスの感染拡大の最中でも下記のようなまちぐるみでの取り組みが行われています。
・自治体に先駆け、各事業者同士連携し街全体で感染症対策のガイドラインを策定
・全ての旅館・商店で補助金の申請に関する情報の共有
・経営者の高齢化が進んでいる、あるいは従業員が少数の旅館は旅館協同組合事務局が手続きを代行
また今後についても、温泉街を1つの旅館としたまちづくりによって、2023年に兵庫県で開催されるデスティネーションキャンペーンや2025年に開催される大阪万博に向けて、街全体を盛り上げていきたいとお話しいただきました。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
質疑応答では、地域全体で進めているまちづくりの仕組みに関する質問について「どこかが先導して行っているというよりもみんなで話し合って進めている。旅館や物産、飲食などそれぞれの業態で組合を作って理事および理事長を選出し、そして観光協会でそれぞれの組合の理事長が集まって話し合うなど、組織立ってまちづくりに関する方針を決めている」と日生下社長よりご回答いただきました。最後に後藤先生より「今回、日生下社長に研究会への登壇を相談したときに、“地域を上げた取り組みに焦点を当ていただけるなら”と返事をいただいた。この返事こそが自分たちだけでなく地域全体のことを考えてきた古まんの1300年の歴史を体現していると感じた。北但大震災や文豪との関係などについても時間の都合上あまり触れられなかったので、7月に行う当研究会にて予定をしている城崎特集第2弾もお楽しみにしていただきたい」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は6月22日に、1662年創業の辰馬本家酒造株式会社の取締役会長である辰馬健仁氏にご登壇いただきます。