【第36回100年経営研究会】ストーリーを伝え、人の和を広げることで100年企業へ(登壇者:1923年創業/有限会社川崎商店)
2022年1月20日
2022年1月11日(火)、第36回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1923年に創業された有限会社川崎商店の代表取締役である川崎絋嗣氏をお迎えし、有限会社川崎商店が5代に渡って川崎文具店を営まれてこられた秘訣と、川崎商店で伝えられている信条などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である川崎代表の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
有限会社川崎商店
代表取締役
川崎絋嗣
大正12年創業、川崎文具店の5代目。12年前「文房清玩」をコンセプトに万年筆とインクの専門店としてお店を改装した。
オリジナルインクを次々と産み出すことから「色彩の錬金術師インクバロン」と呼ばれ、最近はオリジナル万年筆や文房具等の企画開発も行い、全国にファンを持つ。
文房具のプロフェッショナルとしてテレビ等メディアにも登場し、文房具メーカーからの依頼で新商品の企画開発の監修を行うこともある。
自身が立ち上げた大垣子ども職業体験イベント「キッズワークエキスポ」実行委員会の代表を務め、ボランティア活動にも力を入れている。
第1部:トークセッション(有限会社川崎商店 代表取締役 川崎絋嗣 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、有限会社川崎商店が5代に渡って文具店を続けてこられた秘訣と、川崎商店で伝えられている信条などについて川崎代表よりお話しいただき、対談を通じて学びました。
ポイント
- 1. 川崎文具店でしか買うことができない文房具で家業を100年企業へ
- 2. 「相手の視点に立つ」「ストーリーを発信する」が持続的な利益を生み出す
- 3. 川崎商店で受け継がれている2つの信条と川崎代表自身が大切にしている4つの考え方
1.川崎文具店でしか買うことができない文房具で家業を100年企業へ
川崎商店は1923年に岐阜県大垣市で文具店として創業され、2023年には100周年を迎えられる長寿企業ですが、父であり4代目でもある光一氏は息子である絋嗣氏が家業を継ぐことに反対されていました。
文房具だけを専門に販売している会社は最盛期で約3万店ありましたが、現在では3,000店舗を下回っており、少子化やネット化、ECなどの販売チャネルの増加、文房具店の参入障壁の低さなどもあり、今後文房具だけを扱っているお店を持続させるのはかなり困難であると考えられたからです。
しかし、川崎代表はこうした厳しい状況の中でもどうにかして家業を持続させる方法はないかという考えから、「どこでも買えるような文房具を販売するのではなく、川崎文具店でしか買うことができないような文房具を販売する」という方向性に家業を転換されました。
そして、一般的な文房具店では商品を選んでいる際に店員さんと話す場面はめったにありませんが、川崎代表はそこに焦点を当てて「お客さんとコミュニケーションを取れるような商品を販売しよう」ということから、万年筆とインクの専門店としてお店を改装されました。
改装された店舗は創業された大正12年という原点に戻り、「大正浪漫あふれる文房具のテーマパークに」ということで、レンガ造りの建物やベストと鳥打帽の衣装など、コンセプトに沿ったデザインを採用されています。
また、販売している万年筆やインクに関しては川崎文具店オリジナルが150色以上、国内外の市販品350色以上を用意するなど全国屈指の品揃えとともに、全色試し書きやインクの小分け販売(シェアインク)、世界に一つだけのオリジナルインクの調合をその場で行ってくれるなど、他店では出来ないようなサービスを展開されています。
2.「相手の視点に立つ」「ストーリーを発信する」が持続的な利益を生み出す
川崎文具店は垣根を超えた様々なメーカーともオリジナル万年筆や文房具を作製しており、下記のように新たなサービスが次々と展開されています。
- ・関ヶ原町とコラボして、武将をイメージした色の万年筆インクを定額制で毎月お届けするサービス
- ・「三途川」や「九尾之狐」など、古典インクを材料に毎月新たな色を作り、全部で108色のインクを販売するサブスクリプションサービス
また自社ブランドをもっている文具店が少ない中、川崎文具店では「ステーショナリーズ・ギルド」という自社ブランドを用意し、1つ1つの商品にオリジナルのストーリーを込めながら新商品を生み出し続けています。
このように川崎文具店では次々と新たな商品やコラボが展開されておりますが、新商品の開発やメーカーとのコラボの際は下記の2つを大切にされています。
- ・自身が作りたいものと世間が求めているものが合致していること
- ・コラボ相手について徹底的に調べること
お客様に商品を売る、もしくはあるメーカーとコラボ商品を販売する際、自分のしたいことだけを伝えるだけでは継続して利益を生み出すことができません。
そのため、川崎代表は新商品の開発やメーカーとのコラボをする際に、世間が求めていることやコラボ相手の企業について徹底的に調べ、万年筆を買いに来た方やコラボ相手の企業にとって有益であるということを重要視されていました。
こうした相手の視点に立って新商品や新しいコラボを生み出すとともに、それらに込められているストーリーをSNSなどで情報発信することによって、結果的に川崎文具店や川崎代表自身のファンを増やすことに成功されています。
3.川崎商店で受け継がれている2つの信条と川崎代表自身が大切にしている4つの考え方
川崎商店では代々、下記の2つの信条が口伝によって継承されています。
- ・「何でもあるお店は何にもないお店」
- ・「売りたいものは売るな、買いたいものは買うな」
これら2つの信条は、まさに川崎代表が事業承継する際に大事された「川崎文具店でしか買うことができないような文具店を販売する」「物語に付加価値をつける」という考えに繋がっています。
また、こうした川崎家の信条とともに川崎代表は下記の4つの考え方を大事にされていました。
- ・天の時、地の利、人の和
- ・人生の極意はいい加減と適当
- ・拘らない
- ・色即是空
自社のブランドを守り掘り下げていきながら(地の利)、その周りに人の和を広げていくことで(人の和)、来たるべきタイミング(天の時)が来た時に必ずその商品が売れるのではないかという考え方で日々取り組まれています。
また、天の時が訪れた時に全力を出すべきであって、天の時が訪れるまではそれ相応の努力でやり遂げるということも信条とされていました。
そして、「色をつくる際にこだわりを持ってしまうとそこから離れられなくなってしまうため、こだわらず空っぽの心で色をつくることを大切にしている」と、新商品や新たなコラボを次々と生み出すための考え方についてもお話しいただきました。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
質疑応答では、中西印刷の中西社長より今後の事業承継について質問があり、「とりあえず自分自身は60歳で終わろうと考えている。子供には継ぎたければ継いでも良いし、継ぎたくなければ継がなくても良いと伝えているが、子供たちは楽しそうだから継ぎたいと言っている」と川崎代表よりご回答いただきました。
最後に後藤先生より、「川崎さんは次から次へとアイデアが出てきて、そしてそのアイデアをSNSで情報発信されている。そこから仲間が増え、人の和が広がっていく。100年企業にはそれぞれにストーリーがあるが、ストーリーをどのように世の中に広げていくのかについて考え、また同時に新しい商品や新しいコラボも考えていかなければいけない。本日は非常に実践的なお話をしていただきました。ありがとうございました」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は、機構としても執筆に関与させていただき1月21日に発売される『ファミリービジネス白書【2022年版】』の出版を記念し、1月25日(火)にファミリービジネス白書企画編集委員会の皆様にご登壇いただきます。
ファミリービジネスに関する研究に取り組む皆様からお話をお伺いする貴重な機会なため、ぜひご参加ください。