【第40回100年経営研究会】コロナ禍で業績を向上させた長寿企業・京屋染物店が伝える”大義”の重要性(登壇者:1918年創業/株式会社京屋染物店)
2022年4月11日
2022年3月8日(火)、第40回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1918年に創業された株式会社京屋染物店の代表取締役である蜂谷悠介氏をお迎えし、「社長就任後の取り組み」や「地域を巻き込んだ次の100年に向けたプロジェクト」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である蜂谷代表の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
株式会社京屋染物店
代表取締役
蜂谷 悠介(はちや ゆうすけ)
岩手県一関市出身。 1998年東北芸術工科大学在学中に地域のグランドデザインに取り組む「やまがた宝さがし」の実行委員長を勤め、そこに住む人々の価値観からデザインすることの大切さを学ぶ。
1999年在学中に起業し、Web、パッケージ、パンフレットのデザイン製作を中心に業務展開。 2001年より任意団体を立ち上げ、まちづくりに取り組む。
2002年に商店主を育成するチャレンジショップを設立。2年間で5社が独立開業し、内3店舗が商店街の空き店舗に出店。
2003年より京屋染物店に正式に弟子入り。翌年、サイトを立ち上げ、日本全国、海外からの受注体制を整える。
2010年には事業継承し、倒産寸前のところから業績のV字回復を果たす。 消滅可能性都市にも指定された岩手県一関市を拠点に、フランス パリにも営業拠点を展開。ヨーロッパにも販路を広げている。
家族経営のブラック企業がリーダーシップのあり方を変えることで、社員が主体性と個性を発揮し、10年で業績6倍という成果も生み出している。
第1部:トークセッション(株式会社京屋染物店 代表取締役 蜂谷 悠介 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「社長就任後の取り組み」「地域を巻き込んだ次の100年に向けたプロジェクト」などについて蜂谷代表よりお話しいただき、対談を通じて学びました。
ポイント
1.東日本大震災を乗り越えて気づいた“京屋の存在意義”と“商売の本質”
2.新型コロナウイルスの影響下でも業績を113%向上できた要因とは
3.次の100年に向けた新たな取り組み
1.東日本大震災を乗り越えて気づいた”京屋の存在意義”と”商売の本質”
京屋染物店は袢纏・浴衣・民俗芸能の衣装などを手掛け、デザイン・染色・縫製・仕上げ・出荷まで一貫して生産を行なっており、今年で創業104年を迎える長寿企業です。
京屋染物店は創業者である蜂谷松寿氏が京都で友禅染の修行をされた後、21歳の時に岩手県一関市に戻って京友禅の工房として立ち上げられました。
創業当時は岩手県一関市が城下町だったことから芸者が多く、祭囃子なども盛んに行われていたことで非常に繁盛したと言い伝えられています。
また岩手県一関市では祭りが盛んに行われており、蜂谷代表も子供の頃から祭りに参加されていましたが、時代とともに祭りとその継承遺産が減っていき、染物業界も衰退してきているとされています。
こういった状況の中で蜂谷代表は2010年に家業を継承され、当初は経営について右も左もわからない状態で、なおかつ経営状態が苦しかったことからどうにか軌道に乗せるために努められましたが、翌年2011年3月には東日本大震災が起こりました。
震災の被害を受けた京屋染物店は工場が稼働できなくなり、また震災の影響で自粛が全国に広がったことで全国各地の祭りが中止になったため、当時受けていた仕事も全てキャンセルになりました。
震災の被害を受けた蜂谷代表も一時は自暴自棄になりましたが、「人の役に立とう」という意志から災害の復興ボランティアに参加され、そこから被災地での人との出会いがきっかけとなって、岩手・宮城・福島の60団体以上の祭り装束の復興・復活・復元を開始しました。
当初は身銭を切って祭り装束の復興・復活・復元を進めていましたが、復活後の祭りに参加した人たちからお礼としてお金を包んで持ってきてくれたことから、「商売とは人様のお役に立てば、感謝の気持ちに包まれたお金をいただくことができるということなんだ。」と、震災を乗り越えた経験が“京屋を継承する理由”や“商売の本質”の気付きに繋がっています。
2.新型コロナウイルスの影響下でも業績を113%向上できた要因とは
東日本大震災を乗り越え“京屋を継承する理由”や“商売の本質”について気付きを得た蜂谷代表ですが、その後、新型コロナウイルスによる打撃で新たな苦難にも直面しました。
新型コロナウイルスが流行する前は売上の8割が祭り関係のオーダーメイドでしたが、新型コロナウイルスの影響によって祭りが軒並み中止となり、祭り関係の受注はほぼ0になりました。
しかし、新型コロナウイルス流行前と流行後における京屋染物店の業績を比較をすると、113%も向上しています。
なぜ祭り関係の受注がほぼ0になったにも関わらず京屋染物店が業績を大きく向上させられたかというと、蜂谷代表が東日本大震災の時に実感した“変えられるものと、変えられないものを把握する”という考え方が苦難の中でも会社を良い方向へと導いたからだと考えられます。
世の中には「未来と過去」や「自分と相手」のように変えられるものと変えられないものがあります。
蜂谷代表も以前は“過去を悔やむ”“相手を変えようとする”など、変えられないものを変えようとしていましたが、東日本大震災による被害を乗り越えたことで「震災が起きたという事実は変えられないが、今の状況で何ができるかを把握して、できることから実行していく」という考え方に変わります。
変えられないものを変えようとしていた頃は業績が悪く、「このままだと社長についていけません」と社員から言われたこともあったそうですが、そこから社員を含め全員が“どこを目指したいのか”をじっくり話し合ったことで、未来に目が向いて各々のやりたいことが明確になり、そこから逆算していくことでアイデアも生まれ、全員が主体的に行動を起こすように変化したと言います。
こうしたターニングポイントを経て、snow peak(スノーピーク)やTabio(タビオ)、無印良品、パリのCaulaincourt(コーランクール)などとのコラボレーションが生まれ始め、新商品が次々と展開されるようになりました。
また、自社ブランドとして立ち上げた「縁日」はグッドデザイン賞を受賞し、2021年には一人ひとりが主体的に仕事に取り組んでいる姿勢が評価されて『ホワイト企業大賞』を受賞するなど、業績も向上させながら働きがいのある会社を実現されています。
3.地域を巻き込んだ次の100年に向けた新たな取り組み
最後に次の100年に向けた2つの新たな取り組みについてもお話しいただきました。
1つ目は、岩手県南地域の伝統工芸・手工芸の事業所によって構成されている「いわて県南エリア伝統工芸協議会」が開催する『オープンファクトリー五感市』です。
『オープンファクトリー五感市』は3日間にわたってものづくりの面白さを世の中に発信する祭典で、期間中は地場産業企業の工房が開放され、製作・使用体験や工房見学・職人トークなど“ものづくり”の風景を見学することができます。
コロナ禍でもオンラインで実施されており、『オープンファクトリー五感市』を通していわて県南地域の地場産業のファンを増やし、仕事や雇用の創出・後継者不足の解消を地域一体で目指されています。
2つ目は、東北文化や風土をテーマに、京屋染物店が衣食住+知のライフスタイルを独自の目線で編集し、提案する商業施設『東北の暮らし複合ショップ』です。
『東北の暮らし複合ショップ』では、いわて県南エリア伝統工芸協議会や民俗芸能団体との繋がりを活かして、東北の民芸・工芸・食に関わる商品を販売するとともに、カフェやワークショップ、ツーリズム、マルシェなどといった事業も行なうことが予定されています。
『東北の暮らし複合ショップ』は、京屋染物店の「自分たちだけでなく、地域全体を良くしたい。東北のものづくりを良くしたい」という思いから企画が進められており、ブランディングを苦手とする長寿企業が多い中で100年続く企業のものづくりの魅力を発信し、『東北の暮らし複合ショップ』を起点にしながらECや海外への販売も視野に入れて企画が進められています。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
質疑応答では、「ブランディングとコラボレーションをしていく時に、社内を動かしていくためのポイント」について質問があり、「社員に大義が伝わっているかどうかが大事。特に若い人たちは商品を買う時に、“世のためになっているか”“販売会社はどんなことをしているのか”など、商品の背景にあるものをよく見ているので、最終的には理念や大義がブランディングに影響を与える。コラボレーションにおいても、会社として“なぜコラボレーションをするのか”という大義が社内に伝わっていることが大事。コラボレーションで良さや自分たちが培ってきた土壌・伝統をPRして消費者に伝えることできちんとした対価をもらい、それによって企業も地域も下火になってきている縫製業界も潤わせることもできる、ということを伝えることが重要。」と蜂谷代表よりご回答いただきました。
最後に後藤先生より「長寿企業の存在意義は社会のためにできることを長年続けていることにある。本日は、今の21世紀の世の中で長寿企業が存在意義を周りと共有し、地域や社会への貢献をどう実現していくのかという視点で話が広げられていった。コロナで大変だと思いますが、蜂谷社長にも頑張っていただきたい。ありがとうございました。」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は3月22日(火)に、1790年創業の合資会社大和川酒造店の会長である佐藤彌右衛門氏にご登壇いただきます。