活動報告

【第54回100年経営研究会】奈良時代から続くお香の歴史。新たな商品を展開しながら香りの魅力を伝え続ける(登壇者:1705年創業/株式会社松栄堂)

2023年3月25日

2022年11月22日(土)、第54回100年経営研究会を開催いたしました。

 

今回の研究会では、1705年に創業された株式会社松栄堂の専務取締役である畑 元章(はた もとあき)氏をお迎えし、「お香や松栄堂の歴史」「現在の取り組み」「コロナ禍での気づき」などについてお話しいただきました。

 

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。



登壇者の紹介

今回の登壇者である畑氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
株式会社松栄堂 専務取締役
畑 元章(はた もとあき)氏

 

1981年、京都生まれ。1992年の祇園祭で長刀鉾稚児として奉仕。立命館大学を卒業後、2007年に家業である香老舗 松栄堂に入社。製造・販売・営業を経て、2018年に専務取締役。ワークショップや講演を通して、お香の楽しみ方を伝えている。松栄堂は300年ほど前に創業。3代目のころから本格的に香づくりに携わるようになる。現在の社長である父・正高で12代目。趣味は読書。



第1部:トークセッション(株式会社松栄堂 専務取締役 畑 元章(はた もとあき)氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「お香や松栄堂の歴史」「現在の取り組み」「コロナ禍での気づき」などについて畑専務よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント
 1.お香の歴史と松栄堂の取り組み
 2.SNSを起点に若者に広がった「薫住間」
 3.コロナ禍で再認識したメンバー同士で共有・協力することの重要性

 

1.お香の歴史と松栄堂の取り組み

松栄堂は、およそ300年前に丹波篠山の里長であった六左衛門守吉氏が「笹屋」の暖簾をあげたのを始まりとされ、現社長であり畑専務の父でもある正高氏で12代目です。

”和の香りに関わることにできる限り何でも関わり、お客様の声に答えようとする想い”として「香百般」を掲げ、香りに関わる商品の製造販売されています。

最近では、オール電化の普及を受けて火を使わないお香「匂い袋」を展開するなど、時代の変化に応じて幅広い商品を開発し、京都駅八条口では自社ブランド「薫々」も展開されています。

 

元々、お香は奈良時代に仏教とともに日本に入ってきており、宗教的な儀式や貴族の生活の中で使われていました。

源氏物語などにも香りにまつわる場面がたくさん出てきており、昔は着物や手紙についた匂いからその人の財力や社会的地位などを想像していたことが描かれています。

室町時代にはお香の貴重な材料である「沈香」が無くなってしまうのを防ぐため、香炉の上に沈香の小片を乗せて、炭火による熱で温めて香りを楽しんでいたことも。

畑専務はこうしたお香の歴史なども交えながら、ワークショップや講演会を通してお香の楽しみ方を発信されています。

 

材料は主に中国やインド、中近東などのアジア圏で取れる沈香や白檀などから作られますが、戦後以降はヨーロッパやアメリカ、南米からも材料を輸入しつつ、松栄堂では研究開発にも取り組まれています。

また、原料の主な生産地である東南アジアに恩返しするために、ベトナムで植林事業を実施し、現地の人との交流も図りながら、環境活動も積極的に取り組まれています。

 

 

2.SNSを起点に若者に広がった「薫住間」

そして、2018年には香りの情報発信基地として「薫住間」をオープン。

「香りボックス」が注目を集め、SNSを中心に若者に広く認知されるようになりました。

 

松栄堂の社屋1階には「香りボックス」の他に、ショールームやミュージアム、ギャラリースペースなど、作家の方も使用できるようなパブリックスペースを設置しており、香りを楽しんでもらうための空間を創っています。

これにより、パブリックスペースからショップへの流入が増加し、これまで課題となっていた新規のお客様の獲得にも繋がっています。

 

同時に、事務所も改装。

現在は事業部ごとの壁を無くし、色々な部署の人達が集まって会社や商品についてコミュニケーションを取れるように設計したことで、より良い仕事場や商品開発のための意見が集まるようになっています。

また、改装とともに資料のアーカイブ化も進めたことで、会社の歴史的資料が各部署から見つかり、中には昭和初期からアメリカやヨーロッパで販売し、京都天覧の際には昭和天皇にもご覧いただいた「花世界」という商品の記録も。

2022年にはこの「花世界」をリニューアル販売し、昭和初期に販売していた名誉ある商品を復活させるなど、長い歴史を持つ長寿企業だからこそ実現できる取り組みについてもお話しいただきました。

 

 

3.コロナ禍で再認識したメンバー同士で共有・協力することの重要性

新型コロナウイルス感染症の影響も受けた松栄堂ですが、困難を乗り越える過程で得られた新たな気づきについてもお話しいただきました。

 

コロナ禍で、まずはSNSの発信や公式アプリを駆使し、これまで商品を購入してくれていた人たちに対して導線づくりを実施。

その後、ワンコインで匂い袋が郵送で届く「香りの招待状」や、キッチンカーでの移動販売など、おうち時間を逆手にとった取り組みを始めました。

また、薫住間に小さいサイズの匂い袋が手に入るガチャガチャを設置したところ、好評を博し、コロナ前以上に販売数を伸ばすなど、新たな実績にも繋がっています。

 

こうした取り組みを通して、「アイデアや想い、技術などをみんなで共有し、協力し合うからこそ、初めて形にできる」と気づいたと畑専務は言います。

そして最後に、「長寿企業として今後も長寿でいられるかというプレッシャーもあるものの、継続してメンバー同士で綿密にコミュニケーションを取りながら、いろんなアイデアを形にしていきたい」と今後についてもお話しいただきました。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、「お香には貴重な材料が活用されているが、現地の材料の持続的な調達に向けてどのような取り組みをされているか」と質問があり、「新型コロナウイルスによって現地での買い付けが難しくなったが、先代が築いた人脈や信頼関係を活用しながら材料を調達している。また、材料を取り過ぎない、使い過ぎないということも注意している」と畑専務よりご回答いただきました。

 

最後に後藤先生より「日本の和食などの評価は進んでいるが、香りに関してはまだまだ認知が遅れていると感じる。それは言い換えればまだまだ伸びしろがあるということ。今後とも手を携えて一緒に認知拡大に向けて努力したい」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は12月8日(木)に、株式会社森八の若女将である中宮 千里(なかみや ちさと)氏にご登壇いただきます。