活動報告

【第60回100年経営研究会】信頼を積み重ねて100年企業に。伝統産業を世界に広め、唯一無二の雛人形工房へ(登壇者:1923年創業/株式会社左京)

2023年6月25日

2023年2月28日(土)、第60回100年経営研究会を開催いたしました。

 

今回の研究会では、1923年に創業された株式会社左京の4代目である望月琢矢(もちづき たくや)氏をお迎えし、「株式会社左京の変遷」「SNSの活用」「今後の事業展開」などについてお話しいただきました。

 

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である望月氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
株式会社左京 専務取締役・4代目
望月琢矢(もちづき たくや)氏

 

静岡県静岡市出身。1991年生まれ。
大学卒業後、不動産会社への就職を経て2014年に株式会社左京に入社。
四代目として家業を継ぎ、市場規模半減の市場で自社の売上250%アップを実現。
次なる100年を目指し、伝統のあるべき姿をデザインし続ける。

 

 

第1部:トークセッション(株式会社左京 4代目 望月琢矢(もちづき たくや)氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「株式会社左京の変遷」「SNSの活用」「今後の事業展開」などについて望月専務よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント
1.戦時下で倒産の危機も。受け継がれる「信頼」
2.SNSやオンラインショップを活用し、売上UP
3.世界で唯一無二の雛人形工房へ

 

 

1.戦時下で倒産の危機も。「信頼」を積み上げ100年企業へ

左京は、1923年に初代の林蔵氏が金具職人として独立した際に始めた会社で、現在は雛人形の着物のデザイン・縫製から着せ付けまでを行う老舗工房です。

今年で100周年を迎える左京ですが、1945年には第2次世界大戦の影響で、仕事道具などがすべて消失

当時は土人形や凧などを創って苦難を凌ぎましたが、1950年には商品制作の大部分を担っていた初代・林蔵氏が逝去するなど、いくつかの困難を乗り越えて100周年を迎えられています。

林蔵氏が逝去し、一時は生活保護を受けた2代目・輝彦氏ですが、その後、静岡と東京の人形職人のもとで人形制作について教えを受け、「望月人形店」という屋号を新たに掲げて売り込みを開始。

最初は仕入先なども確保できず苦労しましたが、岩槻の雛人形関連商材を取りまとめていた山田基吉氏との出会いをきっかけに、小道具などの仕入れが始まり、商売が繁盛していきました。

そして、輝彦氏は事業承継を見据え、望月人形店から株式会社望月人形店へ組織変更しました。

 

3代目の和人氏は売り上げが鈍化していることもあり、それまで三人官女13人のみの制作だったところを、お殿様・お姫様の制作にも取り掛かりました。

現在では95%以上がお殿様、お姫様の制作であるため、3代目・和人氏が始めたお殿様・お姫様の制作は、左京にとってかなり重要な歴史だったと考えられます。

そして、1988年に株式会社左京へ社名変更を行っています。

4代目の望月専務は、父の代から始まっていた業界外への展開に力を入れ、蝶ネクタイやブックカバー、マスクなど、さまざまな業界で商品の販売を開始

Web関係や社内のDX化も進めていきました。

 

また、左京では初代・林蔵氏から”商売上の約束を守り、信頼を勝ち得る”という精神が受け継がれています。

そのため、職人が多く、「納期が守られない」「支払いが行われない」ということも起こりがちな雛人形制作の業界ですが、左京は取引先との約束を守ることで信頼を積み上げてきました。

こうした企業精神が継続的な受注につながり、長寿経営を実現している理由の一つとも考えられます。

 

 

2.SNSやオンラインショップを活用し、売上UP

左京は老舗企業でありながら、SNSやオンラインショップなどのWeb集客にも力を入れています。

数字としてもすでに成果が現れており、望月専務のインスタグラムは約1万8000人のフォロワーを獲得しています。

インスタグラムでは雛人形の肝である商品の色の違いやこだわり、制作への思いなどを紹介しており、現在はお客様のほとんどがインスタグラムを見て、来店またはWebにアクセス。

認知だけでなく自社商品の購買にも繋げられています。

 

また、オンラインショップではセミオーダーシステムを導入されています。

雛人形や五月人形の顔・着物をお客様自身が選び、組み合わせることが可能なため、お客様の要望に応えつつ、会社としても在庫リスクを減らせるのがメリットです。

こうしたセミオーダーシステムを導入している企業は少なく、五月人形でセミオーダーシステムを導入しているのは左京だけ。

今後も何年にも渡って積み上げてきたWeb集客力の高さを活かしつつ、さらに売上を伸ばしていくことが期待されます。

 

 

3.世界で唯一無二の雛人形工房へ

雛人形の製造・小売りは市場そのものが縮小しつつあるため、「質・効率・希少性・単価」を上げることが存続するためのカギになってきます。

そのための施策として、フィギュアやインテリアとしての雛人形の海外展開、雛人形のレンタル・サブスクリプションサービスなどの、新たな可能性も模索。

また、今後は望月専務自身の経験を活かして、伝統産業分野でのSNS集客のコンサルも視野に入れつつ、若手へ技術継承を行うことで、世界で唯一無二の雛人形工房であり続けることを目標に、日々取り組まれています。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、「”静岡発の世界ブランドを作るのが目的だ。日本の伝統文化が世界から評価されれば、日本人は覚醒する”とあったが、どのような意味か」と質問があり、「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)がジャステン・ビーバーにツイートされて一夜にして大トレンドになったのを見た時に、日本人でさえ価値に気づいていないものを世界の人がいいねと言うと、日本でも有名になると気づいた。同じように雛人形を日本で広めるためには日本人ではなく、外国人にいいねと言ってもらえるようにしていきたい」と望月専務よりご回答いただきました。

 

最後に後藤先生より「私たち機構も最近注目しているキーワードの中に海外がある。日本人が良さをあまり評価していない中で、海外の富裕層が日本人以上に価値を見出している。日本の美しさを海外の人たちが評価する時代は必ず来ると思う。そのために私たちも協力していきたい」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は3月16日(木)に、株式会社大前醤油本店の代表取締役社長である大前 浩介(おおまえ こうすけ)氏にご登壇いただきます。