活動報告

【第18回100年経営研究会】後藤俊夫と100年経営(登壇者:一般社団法人100年経営研究機構代表理事 後藤俊夫)

2021年5月14日

2021年4月13日(火)、第18回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、当機構代表理事の後藤俊夫先生が登壇し、「後藤俊夫と100年経営」と題して、後藤先生が長寿企業研究を始められてからこれまでのストーリーや長寿企業研究を始めたきっかけ、長寿企業経営の共通点などについてお話しいただきました。


登壇者の紹介

今回の登壇者である後藤先生の経歴からご紹介いたします。

<登壇者プロフィール>
一般社団法人100年経営研究機構 代表理事
日本経済大学大学院 特任教授
後藤俊夫
1942年生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後NECに入社し、1974年ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。1997年から1999年まで(財)国民経済研究協会・常務理事(兼)企業環境研究センター所長を務める。
その後1999年静岡産業大学国際情報学部教授、2005年光産業創成大学院大学統合エンジニアリング分野教授を経て、2011年より日本経済大学渋谷キャンパス教授に就任し、同経営学部長を経て、2016年4月から現職。
経営戦略(企業の持続的成長)を専門分野とし、日本における長寿企業、ファミリービジネス研究の第一人者。国内外の大学における教育活動及び大手企業など各方面での講演・セミナーに精力的に取り組んでいる。


第1部:講演(一般社団法人100年経営研究機構 代表理事 後藤俊夫)

今回は後藤先生より、「長寿企業研究を始めてからこれまでのストーリー」や「長寿企業研究を始めたきっかけ」、「長寿企業経営の共通点」などについてお話しいただきました。

ポイント
1. NECを退社してから長寿企業・企業の長寿要因の研究を行う現在までの半生涯
2. なぜ長寿企業・企業の長寿要因というテーマを選んだのか
3. 研究を進める上で最初に行ったこと
4. 研究を進める中で判明した“ファミリービジネス成功の定石”
5. コロナ禍対応調査で判明した長寿企業の強さ


1. NEC退社後、長寿企業・企業の長寿要因の研究を始めてからこれまでのストーリー

後藤先生はNECを退社し大学教授として研究をし始めた頃、サラリーマン時代の経験からマーケティングやグローバリゼーションなどを研究テーマにしようと考えられていました。
しかし実践経営学会に入ったことをきっかけに「老舗企業」についての研究を始め、その後さらに当機構理事である高梨氏などとの繋がりによって“長寿企業=ファミリービジネス”ということに気が付きます。
そこからファミリービジネスという視点でも長寿企業を見るようになり、ファミリービジネスの業績が優秀な原因の分析や実態把握を通じて「日本企業が代々持続発展するための方法を見つける」「“ファミリービジネスは良くない”という日本の世論の是正をする」という思いで、現在まで長寿企業・企業の長寿要因についての研究を続けられています。


2. なぜ長寿企業・企業の長寿要因というテーマを選んだのか

後藤先生が研究を始められた当初、長寿企業について調べている研究者は少なく、出版されている本も多くはありませんでした。
そのような中で「長寿企業・企業の長寿要因」という研究テーマを選んだ要因は以下の3つであると後藤先生は言います。
①1984年に出版された『企業の寿命は30年』という本を読み、企業にも寿命があるのだと知ったこと。
②NECで働いていた時に、「どんなに長く続く企業どんなに大きい企業でも、企業であれば潰れることがある」という話を当時の副社長から聞いた時に「なぜ企業には寿命があるのか」と疑問に感じたこと。
③東京出身で関東育ちであるため長寿企業の多い土地で育ったこと、かつ仕事の都合で長寿企業の多い銀座に行くことが多かったことからなんとなく関心があったこと。
こうした3つの要因があり、その上で研究仲間と議論をしている際に「日本の企業が良くなるためにはどうすればよいか」ということのヒントが長寿企業にあることがわかり、長寿企業・企業の長寿要因というテーマを選ぶに至りました。


3. 研究を進める上で最初に行ったこと

後藤先生がどのように長寿企業に関する研究を進めてこられたのかについてもお話しいただきました。
長寿企業の研究で最初に行ったことは、日本に長寿企業が何件あるのかを調べること。
当時は日本の長寿企業のデータベースがなかったため、全国各地の商工会議所に問い合わせ、時には実際に歩いて地域を調べ、地道に長寿企業の情報を収録していたそうです。
そこからインターネットが普及し、さらには信用調査会社が保有するデータを活用し、自分で集めたデータとも照らし合わせて日本にある100年企業の件数を調査されました。
海外の長寿企業についても同様に調べたところ、日本と諸外国における「超100年企業数」「超200年企業数」という2つの数字が明らかになったことで、長寿企業の多くは日本に集中しており世界に類を見ない長寿企業大国であることが判明したそうです。


4. 研究を進める中で判明した“長寿企業 成功の6つの定石”

日本・海外の長寿企業の数を調べ終えてから企業の長寿要因についても調べている中でさらなる発見がありました。
それは、長く続いている企業には以下の6つの共通点があることでした。
①経営における“長期的視点”
②無理のしない“身の丈経営”
③自分の強みを活かせる事業に特化する“優位性駆使”
④お客様、従業員、取引先、地域社会との“長期的関係”
⑤“安全性(リスクマネジメント)”
⑥“承継の決意”とそのための工夫
そしてこの6つの要因の背景には利他心(経営理念)がすべからく存在している、ということです。

利他経営は日本固有の考え方であり、歴史を辿ると石田梅岩が行った正当な商業活動・利潤の奨励や儒教・仏教・神道を融合した「心学」の提唱、近江商人の三方良し(売り手良し、買い手良し、世間良し)、渋沢栄一が『立会略則』で記した“企業は社会の公器”という言葉にも現れているように、数百年の伝統として受け継がれ今日に至ります。
日本にはこうした利他経営を実行して成功を収めている長寿企業が多く、それらの多くがファミリービジネスということからも、ファミリービジネスを成功させるたの要因であると同時に、同様にそれを支える利他心が重要であるということがわかります。


5. コロナウイルス関する対応調査で判明した長寿企業の強さ

最後に、コロナウイルスの影響を受けて見えてきた長寿企業の特徴についてもお話しいただきました。
米国カンファレンスボードが昨年行った世界経営幹部意識調査ではCEOの多くが、株主中心の経営ではなく従業員・環境・供給業者など全てのステークホルダーの利益を考えるステークホルダー主義の経営にシフトし、そのために企業のミッションを再定義する必要があると考えていることがわかっています。
また永守重信氏やジャック・アタリ氏なども同様に、利益重視や欲望を満たすだけの資本主義を見直し、「社会との共生」「長期的な視点を持つ」「利他主義」などを重視して他者のために生きることがポストコロナの社会においては重要だと語っています。
これを言い換えると、日本の長寿企業は地域全体や社会全体のことを考え、利他経営を実行しているからこそ、コロナウイルスのような危機を幾度となく乗り越えられてきたと言うことができます。
そして、こうした多くの日本の長寿企業が行ってきた経営を科学し、企業が代々持続発展していくために必要な「情報」「学び」「要素」を発信していくことが当機構のミッションとなっています。


第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、参加者より「日本ではファミリービジネスが良い事業形態ではないと思われている、という誤解をどのように払拭していこうと考えているのか」とご質問いただき、「事実を伝えていくことが重要。日本にある260万社の企業ののうち97%がファミリービジネス、前常用雇用でいうと77%の人がファミリービジネスで働いている。数字で示して世論を変える。また、ファミリービジネスがどのような努力・苦労・理念をしているから業績が良いということを伝えていくこと」と後藤先生よりご回答いただき、今回の研究会は終了いたしました。


次回は4月27日に、当機構顧問の落合康裕先生が登壇し、長寿企業研究を始めたきっかけや長寿企業経営の共通点などについてお話しいただきます。