活動報告

【第37回100年経営研究会】『2022年版 ファミリービジネス白書』で判明した新たな家族経営の特徴とは(登壇者:一般社団法人100年経営研究機構代表理事 後藤俊夫)

2022年2月7日

2022年1月25日(火)、第37回100年経営研究会を開催いたしました。


今回の研究会では、2022年1月21日に発売された『ファミリービジネス白書【2022年版】』の出版を記念して、当機構代表理事で、ファミリービジネス白書企画編集委員会の監修責任者である後藤俊夫先生が登壇し、『ファミリービジネス白書2022年版』の見どころや、長寿企業とファミリービジネスの関係性についてお話しいただきました。



登壇者の紹介

今回の登壇者である後藤先生の経歴からご紹介いたします。


<登壇者プロフィール>

ファミリービジネス白書企画編集委員会 監修責任者
一般社団法人100年経営研究機構 代表理事
日本経済大学大学院 特任教授
後藤俊夫


1942年生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後NECに入社し、1974年ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。1997年から1999年まで(財)国民経済研究協会・常務理事(兼)企業環境研究センター所長を務める。
その後1999年静岡産業大学国際情報学部教授、2005年光産業創成大学院大学統合エンジニアリング分野教授を経て、2011年より日本経済大学渋谷キャンパス教授に就任し、同経営学部長を経て、2016年4月から現職。
経営戦略(企業の持続的成長)を専門分野とし、日本における長寿企業、ファミリービジネス研究の第一人者。国内外の大学における教育活動及び大手企業など各方面での講演・セミナーに精力的に取り組んでいる。



第1部:講演(ファミリービジネス白書企画編集委員会 監修責任者 後藤俊夫)

毎回異なるテーマが設定されているファミリービジネス白書。

今回は後藤先生より、「本書の魅力」や「長寿企業とファミリービジネスの関係性」に加え、今回の研究で判明した「新たな長寿企業・ファミリービジネスの特徴」についてもお話しいただきました。


ポイント

  1. 1.ファミリービジネスにおける海外と日本の違い
  2. 2.ファミリービジネス白書について
  3. 3.新たに判明した長寿企業・ファミリービジネスの特徴


1.ファミリービジネスにおける海外と日本の違い

今回で3冊目の出版となるファミリービジネス白書ですが、ファミリービジネスに対する考え方は海外と日本で大きく異なります。


海外ではファミリービジネスが社会からの尊敬の的となっており、大学の授業では起業のテーマとともに扱われていたり、ファミリービジネスだけを取り扱った専門の雑誌なども販売されたりしています。

対して日本では、まだファミリービジネスというワードに馴染みが無かった2006年頃は「血族経営」という表現が使われており、2007年ぐらいにようやく日経新聞の経済教室や日経ベンチャーの雑誌で「ファミリービジネス」というワードが明確に使われるようになりました。

その後も日経ビジネスや週刊ダイヤモンドなどで時々扱われるようになりましたが、日本におけるファミリービジネスはまだまだ海外のように研究が進んでいない分野となっています。


しかしながら、日本は100年以上続く企業が世界で1番多く、またそうした長寿企業の約9割がファミリービジネスです。


こうしたファミリービジネスにおける海外と日本の違いに着目し、後藤先生は2004年からファミリービジネスの研究を始められており、「これまでの日本ではファミリービジネスについてあまり知られてこなかったが、実はポテンシャルが高いということ伝えたい」という思いで、業績面や長寿性などにおけるファミリービジネスの優位性を発信されてきました。

そして、その一環として『ファミリービジネス白書』の出版がなされています。



2.ファミリービジネス白書について

ファミリービジネス白書はこれまでに、2015年版「100年経営を目指して」と2018年版「100年企業とガバナンス」が出版され、2022年版である今回は「未曾有の環境変化と危機突破力」がテーマとなっています。

今回は、2015年版からたどると約10年に渡るデータを整備し、過去の分析を踏襲しつつ、新型コロナウイルス感染症の影響についての緊急アンケートとインタビュー、ファミリービジネスの概要、上場ファミリービジネスの経営分析、特集、個別企業別業績データ一覧など、ファミリービジネスに関するデータを多面的にご紹介しています。


先述したように、ファミリービジネスが経済産業の主役であることは日本においても海外においても同じであるにも関わらず、海外ではファミリービジネスへの関心が強く持たれ、地域経済を長期に渡って支える存在となっているものの、日本では必ずしも高く評価されていません。

こうした日本と海外におけるファミリービジネスに対するイメージの違いから、ファミリービジネス白書は下記の3つの目的で出版されています。


  1. 1.ファミリービジネス分野の実態把握による研究の鋭意促進
  2. 2.関係者が直面する諸課題の解決支援
  3. 3.評価の国内外の温度差・世論の是正

そのために、2014年からまずはファミリービジネスに関する「事実確認・データ構築」を始め、「所有/経営における親族関与の実態把握」「研究者と実務家との共同体制」「海外著名研究者の寄稿」なども進めながら、2015年末・2018年央・2021年末と、約3年に一度出版されてきました。



3.新たに判明した長寿企業・ファミリービジネスの特徴

これまでに出版されたファミリービジネス白書では、それぞれ異なるテーマに基づいてファミリービジネスの研究がなされてきましたが、今回の研究では長寿企業・ファミリービジネスの新たな特徴として「収益性(ROA)と安全性の両方において、一般企業よりもファミリービジネスの方が優れている」ということが判明しています。


一般企業に比べて、ファミリービジネスは自己資本比率・流動比率ともに5期連続で優位、また総資産成長率においても5期平均で優位、ROA(収益性)においても5期連続で優位であることが調査より明らかになりました。

つまり、ファミリービジネスは安定志向が強いことから、年輪を重ねるように着実に会社を成長させており、所有資産を有効活用しながら無駄を排除した効率経営を実現しているところが多いと言えます。


また今回のファミリービジネス白書では、当機構が2020年4月に長寿企業を対象に行った、新型コロナウイルス感染症の影響に関する緊急アンケートも掲載されています。

アンケートでは長寿企業計95社から回答を頂きましたが、その後、アンケートで頂いた情報や新型コロナウイルスに関する長寿企業の対応を共有するための場として、当機構は月2回のオンライン研究会も開催してきました。


さらに、ヨーロッパや中東といった海外でもファミリービジネスを対象とした調査が行われており、海外の調査からもファミリービジネスは「変化・危機への適応性が高い」「レジリエンス、すなわち危機からの回復力が高い」ということが判明しています。


最後に、ファミリービジネス白書の今後の展望についてもお話しいただきました。

次回は2024年の出版を目指して、英語版を作成して海外にも発信することを視野に入れながら、ファミリービジネスに関してより長期的な視点で分析するとともに、これからは非上場企業も対象に調査していくことが予定されています。

ぜひ気になる方は『ファミリービジネス白書【2022年版】: 未曾有の環境変化と危機突破力』をご覧いただければと存じます。



第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、「最近はM&Aによる事業承継も増えてきているが、少子高齢化などによって同族の承継が難しい時に上手く事業承継をするポイントは何か。」について質問があり、「M&Aは今回の白書ではあまり取り扱えていないが、ファミリービジネスの重大な課題だと認識している。1つ目は親族内承継を追求することで、ご子息がいても承継する気持ちになっていないことがあるため、その場合は親子で十分に話し合って親族内継承を追求するべき。2つ目はM&A相手を十分に選ぶことで、数字の面だけでなく、文化についてもファミリーと相性が良いかどうかを入念に調べる必要がある。3つ目は悪質なM&Aの仲介業者に注意すること。」と後藤先生よりご回答いただきました。


次回は2月8日(火)に、1830年創業の株式会社星野又右衛門商店の代表取締役である星野健太氏にご登壇いただきます。