活動報告

【第62回100年経営研究会】「伝統」は「革新」の連続。伝統工芸品「和傘」の技術で世界へ(登壇者:創業約160年/株式会社日吉屋)

2023年6月27日

2023年3月28日(火)、第62回100年経営研究会を開催いたしました。

 

今回の研究会では、創業約160年の株式会社日吉屋の5代目である代表取締役の西堀 耕太郎(にしぼり こうたろう)氏をお迎えし、「事業承継から『古都里』の開発まで」「ブランディング戦略」「伝統工芸品の支援と海外展開」などについてお話しいただきました。

 

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である西堀氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
株式会社日吉屋 代表取締役・5代目
西堀 耕太郎(にしぼり こうたろう)氏

 

1974年、和歌山県新宮市生まれ。唯一の京和傘製造元「日吉屋」五代目。
カナダ留学後市役所で通訳をするも、結婚後妻の実家「日吉屋」で京和傘の魅力に目覚め、脱・公務員。職人の道へ。2004年五代目就任。
「伝統は革新の連続である」を企業理念に掲げ、伝統的和傘の継承のみならず、和傘の技術、構造を活かした新商品を積極的に開拓中。
グローバル・老舗ベンチャー企業を目指す。

 

 

第1部:トークセッション(株式会社日吉屋 5代目 西堀 耕太郎(にしぼり こうたろう)氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「事業承継から『古都里』の開発まで」「ブランディング戦略」「伝統工芸品の支援と海外展開」などについて西堀氏よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント
1.創業約160年。革新のために和傘の技術を活かして照明器具を展開
2.和傘の老舗企業 日吉屋が実践したブランディング方法
3.日吉屋が行う伝統工芸の支援活動と海外展開

 

 

1.創業約160年。革新のために和傘の技術を活かして照明器具を展開

日吉屋は江戸時代後期に創業し、160年続く老舗の和傘屋です。

伝統芸能の歌舞伎や茶道等で使われることが多い和傘ですが、生産量は激減しているのが現状です。

 

こうした業界全体の傾向もあり、西堀社長が継ぐ前の日吉屋は年間売上高が100万円台と、廃業も検討するほど厳しい状況でした。

もともとは西堀社長の奥様の実家が営んでおり、このように一時は廃業寸前だった日吉屋ですが、西堀社長が結婚後に和傘の魅力に興味を持ち、職人として日吉屋を継承。

廃業寸前だった日吉屋を立て直すため、西堀社長は”「伝統」は「革新」の連続”を企業理念に掲げ、革新のための新たな取り組みを進めています。

・時代に合った商品開発
・新技術や新しいデザインとの融合
・和傘の技術や経験を生かしたモノづくり

 

その一つとして、機能的に優れている洋傘に対して、和傘の魅力である「竹骨の意匠」「和紙の透過光」「折り畳み可能」の3つに着目し、2006年に照明器具の「古都里」を開発しました

現在、「古都里」の売上は全体の6割以上という実績をあげています。

さらに、「古都里」はグッドデザイン賞などさまざまな賞を受賞し、数多くのクリエーターやデザイナー、建築やファッションなどの異分野ともコラボしています。

このように、西堀社長は和傘を和傘として売るだけでなく、異なるアプローチで和傘の魅力を伝えながら、100年以上続く伝統を受け継がれています。

 

 

2.和傘の老舗企業 日吉屋が実践したブランディング方法

売れるものを作るためには、素材を厳選したり技術を高めたりして「良いモノ」を作る努力が大切です。

しかし、良いモノを作るのと同じくらい、広報やパッケージを工夫し「良いモノだ」とわかってもらう工夫も重要になります。

そのための戦略として、日吉屋ではおもしろさ(=Unique(ユニーク))を活かしたブランド構築を行っています。

人がおもしろいと思うのは、意外性・ギャップ・驚きがある時です。

これを日吉屋の例に落とし込むと、”京都で和傘を作っている唯一の店であること””和傘の技術をもとにランプを作っていること”が面白さと考えられます。

 

また、単におもしろさだけでなく物語性のあるブランド構築をすることで、お客様から共感・信頼を得ることができ、自社のファン化にも繋がっていきます。

こうしたブランディング戦略により、日吉屋は日本旅館や料亭、ホテル、店舗等でディスプレイとしても高い人気を獲得しています。

 

 

3.日吉屋が行う伝統工芸の支援活動と海外展開

最後に、西堀社長が行っている伝統工芸の支援活動についてもお話いただきました。

伝統工芸には100年以上の歴史によって積み上げられてきた希少価値やユニークな技術があります。

衰退していく伝統工芸を復興させるためには、その価値や技術を店舗販売だけでなく新たな販路を作って、伝えていくことが大切です。

その一つとして、西堀社長は伝統工芸の海外展開を支援されています。

日吉屋もすでに2008年からパリやニューヨークなどで海外事業を展開されており、海外でも人気を集めています。

 

また、海外展開を成功させるために、西堀社長は「Next Market in」という考え方も大切にしています。

「Next Market in」とは、作り手が作りたいモノを売るのではなく、現地に住んでいるバイヤーと協力しながら、売れる商品を作っていくという考え方です。

これまで通りの商品を作っていても、時代の変化により商品がそのまま受け入れられることは難しくなっていきます。

そのため、伝統を継承し続けるためには、市場のニーズに合わせて製品をアレンジしていくことが重要です。

 

同時に、日本から欧州に向けてブランド化して価値を得たものを、中東・アジア・北米にも展開すること(Jターン販売)や、再び日本に展開すること(Uターン販売)で、市場に合わせた商品を作りながらさらに販路を拡大していくことにもつながります。

こうした「Next Market in」と「Jターン/Uターン販売」を組み合わせながら、今後も伝統工芸の業界全体の復興に貢献していきたい、とお話いただきました。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では「西堀さんの考えるリーダーとしてのマインド」について質問があり、「日本は社会インフラが整っており、どんなに困っても生活保護があり、飢えや戦争で死ぬことがない。つまり、多少失敗しても日本で死ぬことは無いので、自分が良いと思ったらトライすることがリーダーとして必要」と西堀社長よりご回答いただきました。

 

最後に後藤先生より「本日、西堀さんからお話のあった、”Next Market in””チャレンジ””本質を忘れない”。これらをキーワードにして当機構も頑張ってまいります」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は4月26日(水)に、株式会社三木屋の10代目である片岡 大介(かたおか だいすけ)氏にご登壇いただきます。