活動報告

【第1回オンライン研究会】地域や社会からの信頼が長寿経営に繋がる。1442年続く金剛組から学ぶ長寿経営 (登壇者:578年創業/株式会社金剛組)

2020年8月18日

2020年8月5日(水)、第1回オンライン研究会を開催しました。
今回の研究会では、日本最古の歴史を誇る株式会社金剛組から代表取締役会長の刀根健一氏を講師にお迎えし、金剛組が創業から1442年間続いてきた要因や、長い歴史の中で訪れた危機と苦悩乗り越えた方法についてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。


登壇者の紹介

今回の登壇者である刀根会長の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
株式会社金剛組
代表取締役会長
刀根健一
1954年生まれ。1973年に高松建設株式会社に入社した後、2001年には同社で取締役に就任。2004年には高松建設株式会社のグループ会社である青木あすなろ建設の常務執行役員を務める。
2012年に株式会社金剛組の代表取締役社長に就任。
2020年4月より同社代表取締役会長に就任し、現在に至る。


第1部:トークセッション(株式会社金剛組代表取締役会長 刀根健一 氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「事業内容と創業から現在に至るまでの経緯」「1442年間続いてきた要因」「過去に経験してきた危機と乗り越えた方法」「創業家である金剛家との関係」について刀根会長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

ポイント
1.長きに渡る“お抱え大工”は顧客第一主義の裏返し
2.血縁でなく“能力主義”の後継者選出
3.時代を超えて誇りを持てる仕事をする
4.日本人の熱い信仰心と伝統美へのこだわり

1.長きにわたる“お抱え大工”は顧客第一主義の裏返し

金剛組は、明治時代に神仏分離令が発令されるまで約1300年の間、顧客である四天王寺家から“お抱え大工”として継続的に仕事を受注していました。
・質と量の伴った宮大工の育成
・技術の伝承
・長期に渡る宮大工集団の形成維持
四天王寺家との継続的な関係から、上記3点が可能となり長寿経営に結びついていると、刀根会長は話します。
しかしこれを裏返して考えると、1000年以上もの間、金剛組が四天王寺家のニーズに応え続けたという、“顧客第一主義を貫いた”結果とも言え、ただの下請けと言うわけではなく、信頼するパートナーと言う位置づけで仕事を受注し続けられたことが非常に大きく影響していることが分かります。

2.血縁でなく“能力主義”の後継者選出

「人の上に立つだけの技量・器を持ち合わせる者が頭首に立つ」
この後継者選出の考え方を守り続けたことが、金剛組の長寿経営に繋がっています。
家内に棟梁適任者がいなければ家の外との養子縁組を行い、また、一度は正大工という位を任命された大工であっても、能力が足りないと判断されれば家を出されたという過去もあったようです。
昭和恐慌時には、37代目頭首が自害をして金剛組全体が混乱をした時期がありましたが、女人禁止という風潮の中、38代目頭首に金剛よしえ氏という女性棟梁が誕生しました。
初めての女性棟梁ということで反発もありましたが、昭和9年の室戸台風の影響で倒壊した四天王寺の五重塔再建や、第二次世界大戦中の企業整備令発令時に整理対象外になるよう交渉を成功させた実績など高い手腕を発揮しています。
女人禁止の風潮があったとは言え、棟梁就任前から素質の高さを示していたことと、能力重視という考え方が影響して、初めての女棟梁が誕生しました。
また、金剛よしえ氏が残した4つの教え、
・仕事は寄付浄財で成り立つ
・感謝の気持ちを持つ
・資材・材料を無駄なく使う
・誠実な仕事に徹す
は今もなお教えとして金剛組に残り続けています。

3.時代を超えて誇りを持てる仕事をする

社寺の寿命は非常に長く、法隆寺のように1400年経ってもなお現存することも多く、建立後何百年かした後に建物の評価がされるものです。
このように非常に長い歴史の中で評価される特殊性がありますので、金剛組では、大工も社員も、「いつの時代に、誰に見られても恥ずかしくない仕事をしなければならない」という気概を持って仕事に取り組んでいます。
幾度か存続の危機があった金剛組ですが、これまでの社寺建築に関わってきた社員や大工が、誇りを持ち仕事をし続けてきたことが、親会社である高松建設や地域からの信頼に繋がり、1442年もの間存続し続けられたと言えます。

4.日本人の厚い信仰心と伝統美へのこだわり

美しい神社仏閣においては自然と手を合わせて拝みたくなったり、傷みや老朽化が進めば、寄付をし合って改修や建て替えをしたりするという日本人の素晴らしい国民性が、金剛組の長寿に繋がる要因の一つです。
八百萬の神様や13宗56派の伝統仏教などが和の心を持ち共存共栄している日本では、16万5000社にも及ぶ神社仏閣が存在し、多くの氏子さんや檀家さんより厚く信仰され支えられてきました。
日本人の信仰心が厚かったからこそ、これほどまでに多くの神社仏閣が現存しており、自社建築を事業とする金剛組の存続にも影響しています。

第2部:質疑応答・総括

参加者からの発表では、ハリウッド大学院大学教授であり老舗・承継経営研究所所長・横澤利昌様より、「39代目〜40代目の時期に少しドタバタしてしまったことがあったが、41代目が就任された直後に会社としての士気が高まり、四天王寺様を含めたお客様との関係も改善された点に感銘を受けた」と、感想をお話いただきました。
また、後藤代表理事からは、「存続の危機に陥った時に『金剛組がないとやっていけない。』『金剛組を潰したら難波の恥だ。』と言われていたと講演がありましたが、“どのようにすれば金剛組のように地域から大事にされる企業になれるか”これが多くの企業にとっての非常に大きな課題になるのではないのか」と総括いただき、今回の研究会は終了いたしました。


次回は8月19日に、1699年創業の株式会社にんべん代表取締役社長の高津伊兵氏にご登壇いただきます。