活動報告

【第7回オンライン研究会】長寿経営の秘訣は危機的情況下でこそチャレンジをすること(登壇者:1879年創業/森島商事株式会社)

2020年11月10日

2020年10月28日(水)、第7回オンライン研究会を開催しました。
今回の研究会では、滋賀県近江八幡市にてレストラン「近江牛毛利志満」を営む、森島商事株式会社から、営業部長の森嶋利成氏をお迎えし、森島商事株式会社のこれまでの歴史や長寿経営の秘訣についてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

登壇者の紹介

今回の登壇者である森嶋営業部長の経歴からご紹介いたします。

<登壇者プロフィール>
森島商事株式会社(近江牛 毛利志満)
営業部長
森嶋利成
1981年生まれ。上智大学フランス文学科卒業後、2008年に東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻・修士課程修了。創業から140年近く、滋賀県近江八幡市にて近江牛の肥育・精肉加工・販売・レストラン業務までを一貫して行う森島商事株式会社(近江牛 毛利志満)に2010年入社。牧場部・長浜黒壁店・経営企画室・本店接客部・精肉部を経て営業部長に就任。

第1部:トークセッション(森島商事株式会社営業部長 森嶋利成 氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは「事業内容と創業から現在に至るまでの歴史」「屋号に込められた理念」「長寿経営の4つのポイント」「コロナ禍に想う」「自社商品と(ヒ)ストーリー」について森嶋利成氏よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

ポイント
1.141年の歴史と2度の存続危機
2.「毛利志満」の理念と長寿経営の4つのポイント

1.141年の歴史と2度の存続危機

1879年、竹中久次・森嶋留蔵兄弟が、牛肉卸売小売業と牛鍋店を兼ねた「米久」が東京・浅草橋で開店されたことに伴って「森島商店」が創業しました。
「米久」は創業後すぐに、「米久の晩餐」(高村光太郎)を詠ませるほどヒットをし、現在で言う近江牛も「江州牛」として東京での圧倒的な支持と人気を得ましたが、「森島商店」は昭和に二度、存続の危機を迎えます。

①戦争による「米久」の消失、四代目森嶋正雄の満州出兵
1度目の危機は、昭和20年代の戦争時中に起きた東京大空襲による焼失と、戦時統制経済の影響による煽りを受け「米久」を閉店せざるをえなくなったことです。
また、家畜商として軌道に乗りつつあった4代目森嶋正雄は満州出兵への招集を受け、家畜商としての商売も数年間停止することになりました。
この危機に対して「森島商店」は以下のことを行います。
・3頭の牛を借り受け再始動
・森島商事株式会社の設立
・近江肉牛協会の設立と大規模PR活動
戦後、3頭の牛を借り受けることから事業を再開し、昭和25年には法人化をしました。
その翌年には、近江肉牛協会全体が一丸となって東京での大規模な宣伝を行ったことで、森島商事を含め、近江から品川駅への牛肉の出荷量が非常に多くなりました。

②経営資源である「牛」の枯渇
2度目の危機は、昭和30~40年代に生じた商売原資である牛の枯渇です。
これは、農耕用の使役牛として飼育されていた牛の役割が、耕耘機に取って代わられることに起因します。
この時点までの森島商事は仲買が事業内容でしたが、この危機を機会として次のような事業転換を図りました。
・近江八幡市での精肉販売所の開始・開設
・竜王町の自社牧場での牛の飼育開始・開設
・「近江牛 毛利志満」近江八幡本店オープン、長浜黒壁店オープン
牛の飼育数が減少したということで、森島商事は自社で牛の飼育を行い、精肉販売やレストラン事業への着手にも取り掛かりました。
仲買という事業だけでは存続出来なかったかもしれませんが、新規事業の創出を見事に行ったことで、140年もの間存続してこられたと言えるのではないでしょうか。

2.「毛利志満」の理念と長寿経営の4つのポイント

屋号「毛利志満」の理念
髪の「毛」ほどの、細くてわずかな「利」益で、勤勉・倹約・正直・堅実の「志」を持って、あらゆるお客様を「満」足させたいという理念が前提に存在しています。
この屋号は、近江商人の家訓「先義後利(義を先にし、利を後にすれば栄える)」、「好富施其徳(富を好とし、その徳を施せ)」を反映するように作られました。
この理念をもとに、森嶋様は下記4点が長寿経営に繋がっているポイントだと考えられています。

①持続的成長を重視した経営
1つ目のポイントは、大局的な時間軸で物事を見ると、目先の利益を追求せず売り上げ・利益至上主義にならないことが大切という考えです。
②ブランドの構築と強化
2つ目のポイントは、時間軸に沿ってブランドは成立しているということです。
暖簾を残すことで周りに信頼を作り、結果として企業の長寿に繋がると森嶋様は考えておられます。
③利害関係者との長期的信頼関係の大切さ
様々な立場のステークホルダーと対等に付き合うことで、危機的な状況下において多くの人が自然と助けてくれるということが3つ目のポイントです。
実例として、取引をしている多くのお米生産者様が、コロナ禍に販売したテイクアウト弁当を買いに来てくれるということが毎日のように続いたと話しておられました。
④経営資源の有限性を生かし守る
4つ目のポイントは、近江牛へのこだわりを大切にしていき、守り続けるということです。


第2部:質疑応答・総括

最後に会員発表として、R&C株式会社代表取締役の足立哲真様より、刺激的な講演内容が多く、その中でも特に、コロナ禍のテイクアウトメニュー販売によって「地域の方々との繋がりを大事にする」という理念が具現化したという話に、「その瞬間が非常に貴重で重要な時間である」とご感想をいただきました。
また後藤代表理事からは、
・環境や条件に違いはあれど、ピンチの際に会社全体で様々な知恵を捻り出すことでチャンスが生まれるということが多い
・絞り出した知恵に、過去の経験から得られたことを付け足し、スピードを重視して行動することで、危機的な状況を乗り切ることや長寿経営にも繋がるのでは
と総括いただき、今回の研究会は終了いたしました。


次回は11月11日に、1849年創業の株式会社山本海苔店専務取締役の山本貴大氏にご登壇いただきます。