【第14回100年経営研究会】社員満足度が第一にあり。200年の歴史を持つ綿善旅館の現在の取り組みとは(登壇者:1830年創業/株式会社綿善)
2021年4月30日
今回の研究会では、京都府にて旅館を営む株式会社綿善から若女将の小野雅世氏をお迎えし、「綿善旅館のコロナ禍での取り組みと今後の展望、そして創業から約200年もの間続いてきた要因」についてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である小野雅世若女将の経歴からご紹介いたします。<登壇者プロフィール>
株式会社綿善
若おかみ
小野雅世
1984年京都生まれ。立命館大学卒業後、メガバンクへ就職し法人営業部にて勤務。結婚と退職を機に実家である綿善旅館に入り、観光庁の「旅館ホテル生産性向上モデル」に選出されたことを受け、業務効率化の成功事例として2017年に安倍元総理大臣前で発表。
2015年に綿善旅館若女将に就任、2019年に京都府就職特命大使に就任し現在に至る。
第1部:トークセッション(株式会社綿善 若女将 小野雅世 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「綿善旅館のコロナ禍での取り組み」「コロナ後の未来の旅館」「綿善旅館の長寿の秘訣」について小野若おかみよりお話しいただき、対談を通じて学びました。ポイント
1. 稼働率100%は必ずしも善ではない。高単価低稼働率で従業員満足度を高める
2. 巻き込む力が地域社会との接点を強くする
3. 誠実に向き合い忠実に取り組むことが長寿の秘訣
1. 稼働率100%は必ずしも善ではない。高単価低稼働率で従業員満足度を高める
旅館業界において稼働率は高い方が良いと考えられがちですが、稼働率を求めるあまりサービスの単価を安くしてしまっては、売り上げの額は変わらずに従業員の労働力を酷使するだけという結果に繋がります。小野若女将は、「人生の大事なひと時を綿善旅館に費やしてもらっている」という従業員に対する想いを語っており、日々働きやすい環境を作るためには、思い切って稼働率を減らすことも重要だと働き手目線での考えを常に持たれています。
稼働率を下げることで仕事に余裕が生まれ、仕事の楽しさを見出す機会に繋がる。
綿善旅館の従業員満足度が高い所以は、目の前の売上だけにとらわれない従業員目線での経営が一つの理由として考えられます。
2. 巻き込む力が地域社会との接点を強くする
綿善旅館ではコロナ禍において一時売り上げが98%減まで落ち込みましたが、そんな状況下においても地域住民に明るさを取り戻したいとの想いで12個もの企画を開催しました。この12個の企画の中には、緊急事態宣言中の休校によって行く場所がなくなった子供のための「寺子屋」の開放や、祇園祭の中止に際して開催した綿善旅館での「夏祭り」、緊迫した状態が続く医療関係者への「板前弁当の差し入れ」といった企画があり、これらの開催には、綿善旅館だけではなく地域社会との繋がりや地域社会を巻き込む力が必要不可欠だったと言えます。
人を巻き込むからこそ小野若女将の想いや活動が人伝えに伝播していき、関係者の繋がりや開催する企画が増え、社会と接点が広がっていきました。
綿善旅館ではこのコロナ禍での数々での取り組みが影響して、競合他社である京都市内5つの旅館との共同プロジェクトの開催にまでたどり着き、旅館だからこそできるサービスの提供を実現させています。
3. 誠実に向き合い忠実に取り組むことが長寿の秘訣
「お客様の一生の思い出のお手伝い」をすることが綿善旅館の仕事というお話がありましたが、この信念に対して誠実に向き合ってきたからこそ綿善旅館の今があります。無理に業務の手を広げることや、自分たちにできないことに取り組むのではなく、身の丈にあった仕事に誠実に向き合って、忠実に取り組むことこそが企業にとっては重要なことです。
掲げた信念を貫く姿勢を継続し、次の世代、また次の世代へと引き継いで繋いでいくその結果が長寿企業に結びつくと言えます。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
最後に後藤先生より、綿善旅館のコロナ禍での取り組みは、自社だけでなく業界全体のことを考え続けてきてきたからこそ生まれた企画が、多くの共感者を生み社会やメディアからも注目を集めるという自然な流れであったのではないかと総括いただきました。また綿善旅館は、従業員からのアイデアが多く採用され外部の方からも注目されるなど従業員が輝いて働ける長寿企業の良い例であるとの感想をいただき、今回の100年経営研究会は終了いたしました。
次回は2月24日に、室町時代創業の株式会社糀屋三左衛門、代表取締役社長の村井裕一郎氏にご登壇いただきます。