活動報告

【第23回100年経営研究会】育て合う・育ち合う組織を作り上げ、お米を日本酒、お客様の笑顔へと変える(登壇者:1662年創業/辰馬本家酒造株式会社)

2021年7月1日

2021年6月22日(火)、第23回100年経営研究会を開催いたしました
ファミリー・ビジネス・ネットワーク・ジャパンとの共催企画となった今回の研究会では、1662年に創業された辰馬本家酒造株式会社の取締役会長を務める辰馬健仁氏をお迎えし、辰馬本家酒造の約350年の歴史に加え日本酒の市況や企業理念などについてお話しいただきました。

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である辰馬会長の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
辰馬本家酒造株式会社
取締役会長/公益財団法人 白鹿記念酒造博物館 理事長
辰馬健仁

 

兵庫県にある世界一の日本酒の生産地「灘五郷」で『白鹿』を製造する辰馬本家酒造株式会社。日本酒文化の継承と、教育・文化事業に注力する。辰馬本家15代当主の次男。
昭和46年5月生まれ。平成6年3月に甲南大学法学部法学科卒業し、平成6年4月株式会社三和銀行に入行。その後平成11年4月に辰馬本家酒造株式会社入社し、平成18年6月に代表取締役社長に就任。そして令和2年4月に取締役会長に就任し、現在に至る。
その他、辰馬グループの学校法人千歳学園・松秀幼稚園の理事長、学校法人辰馬育英会甲陽学院中学・高校の理事も務める。

 

第1部:トークセッション(辰馬本家酒造株式会社 取締役会長 辰馬健仁 氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「辰馬本家酒造の約350年の歴史」と「日本酒の市況や企業理念」などについて辰馬会長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント

1. 財閥解体と阪神淡路大震災。地域貢献の思いが苦難を乗り越える鍵に

2. “米を笑いに”をスローガンに、お米をお客さんの笑顔に変える

3. 企業理念の改訂。コロナ禍で考え抜いた辰馬本家酒造の存在意義と事業意義

 

1.財閥解体と阪神淡路大震災。地域貢献の思いが苦難を乗り越える鍵に

辰馬本家酒造は現在、西宮を拠点に酒造事業・教育事業・文化事業・不動産賃貸業・人材派遣業など様々な事業を展開されており、辰馬会長は教育事業や文化事業などグループ事業全体の統括をされています。
しかし、創業から350年以上もの間、順風満帆に事業を拡大できたというわけではなく、これまでに「財閥解体」「阪神淡路大震災」という2つの大きな苦難を乗り越えられた歴史があります。

 

戦後の財閥解体では、地方の準財閥に指定されていたことからGHQによる財閥解体に遭い、戦中からすでに汽船事業や保険事業、銀行、鉄道などを手掛けられていたものの、多くのグループ事業を手放さなければいけなくなりました。
また、1995年に起きた阪神淡路大震災では、当時、辰馬会長の父である章夫氏(15代目)が会社を番頭さんに任せながら、自身は灘五郷の復興のために地域の同業他社をまとめて陣頭指揮をとり、地域貢献に奮闘されています。

 

このような企業にとっての大きな壁を乗り越え、現在も教育や文化等の多様な事業を展開できているのは、辰馬グループが自分たちの利益だけでなく地域貢献を第一に考えて経営をされてきたからだと考えられます。

 

2.“米を笑いに”をスローガンに、お米をお客さんの笑顔に変える

辰馬会長は今回の研究会で“米を笑いに”というテーマでお話しされましたが、このようなスローガンを掲げられている背景には、日本酒の市況が関係しています。
日本酒の出荷量は1972年から約50年で74.5%減、酒蔵数自体も1991年から2017年までの26年間で4割減となっており、アルコール業界における日本酒のシェアについても1989年から2019年の間で15.6%から4.6%に低下しています。

 

しかし一方で、海外においては清酒の製造所が増加していることと、国内では高価格帯の日本酒の販売が伸びています。

 

辰馬会長はこうした日本酒の市況を踏まえ、辰馬本家酒造が勝ち残っていくためにはお米をお酒に変えるだけではなく、お客さんの笑顔に変えていけるようなお酒・会社にならなければいけないと考え、“米を笑いに”というスローガンを掲げられています。

 

3.企業理念の改訂。コロナ禍で考え抜いた辰馬本家酒造の存在意義と事業意義

“米を笑いに”のスローガンに加え、企業理念についてもお話しいただきました。

 

辰馬本家酒造ではこれまで、13代目である吉左衛門さんがおよそ100年前に株式会社化したときに掲げられた「育てる」を企業理念としてきました。
しかし今回のコロナショックを契機に、辰馬会長は企業理念と合わせて自社の存在意義や事業性についても見つめ直します。
その結果、辰馬本家酒造が常に「育てる、育て合う」ということを追求してきたグループであるということを見いだし、企業理念を「育てる 育て合う 育ち合う」に改められました。

 

こうした理念はまさに教育事業や文化事業などで体現されており、今後も育て合う・育ち合うという双方向の関係性を維持しながら、辰馬本家酒造に関わってくれた方が笑顔になるような存在を目指して取り組んでいきたいとお話しいただきました。

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、「震災時の活躍からも人望が厚いと感じられるお父様だが、人望を集めることに繋がるようなお酒の奉納や供養、あるいは修行などをされていたか」という質問について、「修行とか悟りを開くということはしているのを見たことはない。ただ、年齢・性別関係なくあらゆる人にフラットに接しているように感じる。また供養はしていないが、松尾大社や稲荷大社にお酒の奉納はしている」と辰馬会長よりご回答いただきました。

 

最後に後藤先生より「日本の長寿企業と海外の企業の比較は大きなテーマであり、日本の長寿企業には社内に神社があってそれに祈祷したり、襲名があったりなどそれぞれの儀式がある。そういった日本の長寿企業の儀式も海外から注目されているものの一つ。今回は、非常に良いお話をお聞かせいただきありがとうございました」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は7月5日に、城崎企画第2弾として、城崎温泉の運営に携わられている温泉寺の住職の小川祐章氏、山本屋当主の高宮浩之氏、三木屋の10代目若旦那の片岡大介氏、西村屋の代表取締役の西村総一郎氏にご登壇いただきます。