活動報告

【第26回100年経営研究会】飽くなき挑戦によって、丸三ハシモトだけでなく伝統楽器産業全体の発展へ(登壇者:1908年創業/丸三ハシモト株式会社)

2021年8月10日

2021年8月3日(火)、第26回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1908年に創業された丸三ハシモト株式会社の代表取締役を務める橋本英宗氏をお迎えし、「日本の伝統楽器産業が置かれている状況やコロナウイルスの影響により厳しい状況が続くと予想される中での今後の打開策」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である橋本社長の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
丸三ハシモト株式会社
代表取締役
橋本英宗

昭和49年滋賀県長浜市木之本町生まれ。
立命館大学卒業後同社へ入社し、箏糸、三味線糸、琵琶糸等和楽器糸製造全般を学ぶ。
和楽器だけでなき海外の伝統楽器に目を向け、平成23年より当時絹絃が廃れていた中国伝統楽器市場への進出に成功。現在もアジアの絹絃製作技術の継承、発展に取り組む。

 

令和元年には正倉院事務所から依頼を受け、模造螺鈿紫檀五絃琵琶の絹鉉製作を行うなど古楽器に使われた絹鉉の解析研究、製作に取り組む。

 

平成25年大日本蚕糸会主催 第一回技術経営コンクール似て大日本蚕糸会会頭賞受賞
平成26年全国伝統的工芸品産業大賞 準グランプリ受賞
全国邦楽器組合連合会理事、木之本宿活性化協議会副会長

 

 

第1部:トークセッション(丸三ハシモト株式会社 代表取締役 橋本英宗 氏 × 後藤 代表理事)

今回のトークセッションでは、丸三ハシモト株式会社の歴史や事業承継に関する考え方などについて橋本社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント

 

1. 和楽器業界の衰退。海外進出でさらなる発展を目指す
2. 国内市場への対応も。丸三ハシモトの飽くなき挑戦
3. 新型コロナウイルスによる大打撃。伝統産業を守るための施策とは

 

 

1. 和楽器業界の衰退。海外進出でさらなる発展を目指す

業界トップとなる約400種類もの商品を製造し、まさに業界を代表する長寿企業・丸三ハシモトですが、和楽器業界全体で見ると演奏家の高齢化や演奏人口の減少によって、市場はどんどん小さくなっていくと予想されており、丸三ハシモトにとっても既存の商品は頭打ちになっているという現状があります。
こうした状況の中で、丸三ハシモトを発展させて継続させるために、橋本社長はまず自社の強みは何かを追求し、今の経営を補完するような新しい柱を作ることが重要だと考えます。
そして自社の強みについて分析していく中で、その強みを活かすための新市場についても考え始め、そこから伝統楽器が盛んである一方で絹絃メーカーは少ない中国・台湾・韓国といった海外の市場に目をつけます。

 

実際に海外進出された後は、下記のような実績を残されています。

 

・上海ミュージックチャイナに7度出展。そこで出会った古琴製作の第一人者である王鵬氏から高い評価を受けて本格的に輸出を開始し、その後は中国における人間国宝級を含むトッププロの演奏家たちにも丸三ハシモトの絹絃を使用した古琴が使われるようになる
・孔子も嗜んだと言われる「古琴」の製作技術を約1年でマスターし、日本では丸三ハシモトだけが持つ技術となる
・中国の金属絃メーカー最大手の『楽聖楽器』と契約
・2016年からは台湾にも訪問し、台湾への輸出を開始
・2019年10月、上海にて絹絃製作に関するインターネットセミナーを開催し、セミナー開始後数日で1万人を超える視聴を集める
・韓国伝統楽器「伽耶琴」「ヘグム(韓国版二胡)」の絹絃製作のオファーを受け、アジアの三大絹絃文化である日本・中国・韓国の絹絃を製作するようになる

 

このように海外進出・新市場開拓で成功できた理由として、橋本社長はいくつかの理由を挙げられています。

 

・「情報収集によってその国の文化・風習を理解し、その市場に応じたビジネス対応を柔軟に考えること」
・「海外とのビジネスは単独だとリスクが大きいので、その国における信頼できるパートナーを探すこと」
・「商品を売ることだけでなく、絹絃製作工程などを深く知ってもらうことで絹絃文化の文化的価値を広めること」

 

海外進出によって、日本で培ってきた技術で海外からも高い評価を受け、世界的に絹絃メーカーとしての可能性を示すことができただけでなく、橋本社長自身のカラーを出すことができたことによって社員に対しても良い刺激を与えることができています。
また、実際に海外からのオーダーも絶えることがなく、永続的なビジネスへと発展すると考えているともお話しいただきました。

 

 

2. 国内市場への対応も。丸三ハシモトの飽くなき挑戦

海外進出をうまく軌道に乗せることができた丸三ハシモトですが、国内市場の発展にも寄与されています。
国内市場では大きく2つの対応をされています。
1つ目は、業界団体である全国邦楽器組合連合会(全邦連)の理事に就任し、新しく設立した邦楽器商業振興議員連盟の窓口を務められました。
2つ目は、Facebook・Twitterなどを活用して制作現場や製品紹介、活動状況などの情報発信をすることで、顧客の動きや細かなニーズ、そして自社のブランド力向上に尽力されています。

 

また、国内市場を発展させるための取り組みだけでなく、下記のような丸三ハシモトとしての新たな挑戦にも取り組まれています。

 

・三味線糸のカラーバリエーション作製
・バロックバイオリンのための絹絃の製作
・海外楽器絃直接販売のためのネット販売を構築

 

こうした取り組みや新たな挑戦もあり、下記のような実績を残されています。

 

・上皇后美智子様が皇居内で飼育した日本古来種の蚕「小石丸」から取った糸を使用して、正倉院を代表する宝物「螺鈿紫檀五絃琵琶」の精巧な模造品の絹絃を丸三ハシモトが製作し、全国で展示される
・2020年度版中小企業白書・小規模企業白書に事例として紹介される

 

このように丸三ハシモトは業界を代表する長寿企業として、自社を次世代へと繋いでいくための取り組み以外に、業界全体を引っ張っていくような取り組みも行い、さらにSNS等を活用してうまく情報発信することで、自社だけでなく業界全体の発展に寄与されています。

 

 

3. 新型コロナウイルスによる大打撃。伝統産業を守るための施策とは

最後に新型コロナウイルスによる影響についてもお話しいただきました。
邦楽業界にとっても新型コロナウイルスの影響は大きく、全国的に舞台や演奏活動が停止されたことによって、和楽器の需要も大幅に減少しました。
邦楽業界全体が新型コロナウイルスによる大打撃を受け、さらにコロナ禍の低迷が長引いていることによって、伝統音楽の産業全体が破綻することさえ懸念されています。
伝統音楽産業の衰退を打破するために、橋本社長は以下の施策を考えられています。
短期=国への緊急支援の要望
中期=大阪万博への対応
長期=海外用和楽器の開発
こうした施策を打つとともに、絃づくりや演奏家のためのサービスから振れずに新商品や新市場の開拓を進めることで、次世代に伝統技術や会社を繋いでいきたいとお話しいただきました。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、メディアに取り上げてもらうための工夫について質問があり、「メディア側に関心を持ってもらえるようなことを、自社ができているかということに尽きると思う。メディアが来られた時にどういったことをどういうふうに見せるかということが大事で、当社の場合は製造工程を惜しげもなくご覧いただいているので、メディアを見た皆さんに想像してもらいやすいような会社づくりやPRづくりをできていると思う。こういった点が長くメディアに取り上げて頂いている理由の一つ」と橋本社長よりご回答いただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は8月24 日に、1902年創業の株式会社南部美人、代表取締役社長の久慈浩介氏にご登壇いただきます。