【第29回100年経営研究会】伝統の味を守りつつ、アフターコロナに向けた新たな革新を(登壇者:1850年創業/有限会社日本橋弁松総本店)
2021年10月1日
2021年9月28日(火)、第29回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1850年に日本最初の折詰弁当専門店「弁松」として創業、前身の食事処「樋口屋」を含めると200年程度の歴史を持つ、有限会社日本橋弁松総本店の代表取締役である樋口純一氏をお迎えし、日本橋弁松総本店として取り組んできた「不易流行」についてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構顧問で静岡県立大学教授の落合康裕先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である樋口社長の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
有限会社日本橋弁松総本店
代表取締役社長
樋口純一
1971年東京都生まれ。1994年日本大学法学部を卒業後、親戚の営む新潟の割烹旅館に勤務。1997年有限会社日本橋弁松総本店入社。半年後、先代急死により現職就任。以降、過労死をかわしつつ、寿命の限り経営に砕身中。老舗としてのプライドを高める一方で、いかに敷居を低くするかをテーマに日々活動。日本橋の古絵葉書を収集したり、街案内のガイドをしたりして、日本橋の魅力をゆるく伝えている。
コロナ禍ではSNS活用により新規ファンを増やしているが、いかに自社が世間に認知されていないかを痛感。今後は、自社だけでなく日本橋の様々なお店ももっと知ってもらえるような取り組みを始める予定。
第1部:トークセッション(有限会社日本橋弁松総本店 代表取締役 樋口純一 氏 × 落合康裕 顧問)
今回のトークセッションでは、有限会社日本橋弁松総本店として取り組んできた「不易流行」について樋口社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。
ポイント
1. 樋口屋から200年続く歴史。時代に合わせて変化することで様々な危機を乗り越える
2. 日本橋弁松総本店が弁当屋として200年以上続いている3つの理由
3. 今が転換の時期。コロナを乗り越え、革新を起こして永続する企業へ
1. 樋口屋から200年続く歴史。時代に合わせて変化することで様々な危機を乗り越える
弁松は、前身である「樋口屋」の時代も含めると200年以上の歴史がありますが、その間には様々な危機が起こっており、弁松は時代に合わせて変化することでこれらの危機を乗り越えてこられています。
前身である「樋口屋」は1810年、日本橋にまだ魚河岸があった頃に小さな食堂から始まっており、魚河岸で働く方々が多く訪れていました。
当時はボリュームのある料理が提供されていましたが、利用客が忙しかったことから料理を食べきらずに残していく人が多かったため、お持ち帰りのサービスも始めるようになります。
そこからイートインとテイクアウトの両方を行う形で2代目3代目と続き、3代目の松次郎氏の時にはお持ち帰りの需要が圧倒的に多かったことから、1850年に食堂を閉めて仕出し屋に業態を変え、同時に屋号も「樋口屋」から「弁松」に変えます。
その後も、4代目の時には高級路線に変更、5代目6代目で関東大震災と戦争を経験したものの戦後に三越に出店し、7代目ではさらに百貨店での出店を増やすなど、年々売上を拡大させることに成功しています。
このように弁松は前身の「樋口屋」の時から、お持ち帰りの開始や業態の変化、戦後の百貨店での出店など、時代に合わせて変化させていくことで200年という長い歴史を作られています。
2. 日本橋弁松総本店が弁当屋として200年以上続いている3つの理由
樋口社長は弁松が約170年、前身の「樋口屋」も合わせると200年以上続いている理由について3つ挙げています。
1.独特の甘辛の濃い味
2.思い出の中に残る弁当
3.時代に合わせて変化する
弁松の砂糖と醤油をふんだんに使用した甘辛の濃い味は、他のお店にはない独特の味であることから、弁松のお弁当そのものが江戸から伝わる文化の一つとなっています。
また、味覚と人の記憶には密接に関係があることから、長い歴史のある弁松のお弁当を食べることで、単に空腹を満たすだけでなく、食べた人は昔の思い出が蘇るような弁当となっています。
そして代々受け継がれている弁松の味やお客様に喜んで頂くためのサービス精神など、弁松の根底にある心意気は変えることなく、時代に合わせて変化してきたという点も弁松の長寿の要因です。
その中で、樋口社長は「弁松は弁当屋という定義ではなく、弁松屋」という感覚であると言います。
弁当を通して江戸文化を体験してもらい、食べた人の大切な思い出づくりのお手伝いとその人の人生を豊かにする役割を弁松屋は担ってきました。
3. 今が転換の時期。コロナを乗り越え、革新を起こして永続する企業へ
時代に合わせて変化することで長寿経営を実現してきた弁松ですが、樋口社長は今が新たな転換の時期であると言います。
近年は気候変動によって食物の収穫時期がずれたり魚が獲れなくなったりして、今後も同じ価格で販売し続けられるとは言い切れない状況になっています。
また、新型コロナウイルスによる影響も大きく、弁松は製造業に分類されることから協力金も一切給付されていません。
しかしこのような苦境でも樋口社長は、弁松のSNSアカウントを開設したり、クール便を始めたりなど、弁松の革新に向けて新たな取り組みをされています。
そしてSNSを通して弁松を知らない人がまだまだ多いという発見があったり、クール便については月に1〜2回不定期での販売を試す中で、遠方のお客さんから「東京に行くことができないのでありがたい」といった声が挙がったりするなど、アフターコロナに繋がる収穫が得られています。
こうした苦境の中でも折れずに“できることをしよう”という考え方や、伝統を守りながらも新たな革新に取り組む姿勢が、弁松という長寿企業を作っていると秘訣だと考えられます。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
質疑応答では落合先生より「次の世代に期待すること」について質問があり、「次の世代に期待する前に、まずは次の世代が弁松で仕事をした時にやりがいや楽しさを感じるようにしないといけない。労働時間や給料はもちろん、お客さんからのリアクションや承認、弁松での存在意義が重要。社員が承認や存在意義を感じられる機会を作っていくことがこれからの課題」と樋口社長よりご回答いただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は10月14 日に、1915年創業の東酒造株式会社、常務取締役の福元文雄氏にご登壇いただきます。