活動報告

【第30回100年経営研究会】ブランド力を向上し、縮小する酒類業界で新たな可能性に挑戦(登壇者:1915年創業/東酒造株式会社)

2021年10月21日

2021年10月14日(木)、第30回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1915年創業で焼酎を中心に酒類の製造販売をされている東酒造株式会社の常務取締役である福元文雄氏をお迎えし、「100年以上続く東酒造の歴史や現在取り組まれているチャレンジ」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である福元氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
東酒造株式会社
常務取締役
福元文雄

 

1975年鹿児島県生まれ。1999年明治学院大学国際学部を卒業後、外資系資産運用会社に入社、マーケティング業務や法人営業等に携わる。
その後、国内系証券会社数社にて日本株式のトレーディング業務に従事。2010年に母方の家業である東酒造に入社。広域営業を担当し、北海道から九州まで一人で営業活動を行う。現在は営業関連業務から離れ、商品開発やマーケティング関連・広報活動等を担当。焼酎の新酒質開発や地元大学との共同研究など新しい取り組みに果敢にチャレンジ、攻めの姿勢で厳しい業界の生き残りを目指して日夜奮闘中。趣味は水泳。

 

 

第1部:トークセッション(東酒造株式会社 常務取締役 福元文雄 氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「東酒造株式会社の歴史や現在取り組まれているチャレンジ」について福元社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント

 

1. 【東酒造の歴史】先代の思いが焼酎ブームによる会社拡大へと繋がる
2. 【現在の取り組み】4つの軸で新たなファン層を獲得し、ブランド力を向上
3. 【今後の展開】継続性のあるブランドを作り上げ、さらなる長寿企業へ

 

 

1. 【東酒造の歴史】先代の思いが焼酎ブームによる会社拡大へと繋がる

始めに、東酒造の歴史についてお話いただきました。
東酒造は喜内氏が1915年に創業してから、2代目は福元氏の祖母である匡子氏が承継し、現在は母である万喜子氏が3代目として代表取締役を務められています。

 

2代目である匡子氏は東家に嫁いできたものの、結婚後まもなく夫が他界してしまいます。
酒類業界は男性社会であることから、女性には難しい環境ではありましたが、匡子氏は起業家精神や自分で新しいことをしたいという思いが強く、外から優秀な人材を連れてきて会社の技術を高めていきました。
もともとは身内でほそぼそと経営されていましたが、2000年以降に訪れた焼酎ブームによって鹿児島だけでなく全国でも焼酎が飲まれるようになり、会社の拡大へと繋がります。
経営が困難の中でも、匡子氏が優秀な人材を社内に連れてきて会社の技術を高めていたからこそ、2000年以降に起きた焼酎ブームに乗ることができ、今のような企業体へと繋がっています。

 

 

2.【現在の取り組み】4つの軸で新たなファン層を獲得し、ブランド力を向上

酒類業界は新型コロナウイルスや若者の酒離れなどの影響もあり、現在は市場が縮小し始めています。
このような酒類業界の現状がある中で、東酒造が継続的に成長していくためには長期的な視点を持って、何もしなくても売れ続けるようにブランド力を向上していくことが必要であり、実際に下記の4つの軸をもってブランド力向上に取り組まれています。

 

1.Technology(品質)
2.Image(顔)
3.Empathy(感情移入)
4.Entrance(入り口)

 

まず既存商品の質を高めていくことが製造メーカーとしての責任であるため、若年層・女性向けに香りや酒質を変え、鹿児島大学と共同で黒酒の機能性分析に関して研究することによって、既存商品の質を高められています。
それと同時に、
「克」→アスリート・勝負事
「寿百歳」→いつまでも現役・アクティブシニア・老舗企業
のように、ブランドごとに商品イメージを明確にすることによって、購入する側が感情移入しやすいように商品設計がなされており、購入者の感情移入度が商品の付加価値へと繋がり売上の確保へと繋がっています。

 

また、東酒造は長寿企業が苦手としている情報発信にも積極的に取り組まれています。

 

・鹿児島デザインアワード2018(猫ラベルで焼酎を販売し、猫好きの人にアプローチ)
・SHOCHU女子会@イタリアンレストラン(女子会と焼酎のコラボ)
・地元の振る舞い酒(会社の前の公園で『七窪』を飲んでもらう)
・サイバードのゲーム「イケメン戦国」とコラボ(ゲーム好きへのアプローチ)
・笑点の山田隆夫さんと『寿百歳』のコラボレーション焼酎「幸せと長寿を運に笑酎」を販売(芸能人とのコラボで色々な人の目に触れるように)

 

単に自社商品を発信するだけでなく様々なジャンルでコラボレーションを行い、常に話題性のある情報を自社SNSはもちろん既存メディア広告を用いて発信していくことによって、焼酎への入り口を広くし新しいファン層の獲得を目指されています。
東酒造のように目先の売上や利益を重視するのではなく、自社が継続的に成長するためにはどのようにすればよいかという長期的な視点を持って日々取り組むことが、長寿企業にとって重要です。

 

 

3. 【今後の展開】継続性のあるブランドを作り上げ、さらなる長寿企業へ

最後に今後の展開についてもお話しいただき、福元氏は東酒造の今後の展開について下記の6つを挙げられました。

 

1.地道に継続性のあるブランド向上活動
2.選択と集中 ブランドの統廃合
3.黒酒の一般家庭用の普及
4.国内重視、地元重視
5.メッセージ性の持つ企業を目指す
6.アルコール以外の取り組み

 

福元氏は「自分たちで考え、たくさん失敗を重ねながら、東酒造のブランドを向上していきたい」と言います。
例えば先代の生き様がブランドとなった『寿百歳』のように、ブランドに東酒造としての哲学やメッセージを込めることで、お客様が共感し継続的に購入されるような工夫もされています。
また、国内・地元を重視して数字を作っていくと同時に、アルコールだけでは市場が縮小しているため、醸造技術をベースに新たな食品の製造にも取り組まれており、業界全体の動向を見ながらアルコール以外の商品開発にも挑戦されています。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、韓国への販促でうまくいった企画や出来事など海外販促についての質問があり、「日本市場が厳しくなっていることから、国や組合から色々な協力金や体制ができつつある。また弊社の場合は、東酒造の商品を売りたいというパートナーから問い合わせがあったので、今は海外で自社の商品を販売してくれるパートナーを頼って業績を伸ばしている」と福元氏よりご回答いただきました。
最後に後藤先生より、「長寿企業は真面目に質の良い商品を作っているが、情報発信が不得意なところが多い。一方、東酒造は情報発信を駆使してやってこられている。他にも知恵や工夫を具体的にお話いただいた。今日も色々な地域・業態の方がたくさん参加しているが、ぜひ1つでも2つでも東酒造の事例を活用し、実践していただきたい」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は10月26 日に、1800年創業の株式会社大石天狗堂、代表取締役の前田直樹氏にご登壇いただきます。