【第33回100年経営研究会】創業670年の長寿企業「まるや八丁味噌」が抱える危機とは(登壇者:1337年創業/株式会社まるや八丁味噌)
2021年11月30日
2021年11月24日(水)、第33回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1337年に創業された株式会社まるや八丁味噌の代表取締役、浅井信太郎氏をお迎えし、「海外への情報発信や伝統製法、まるや八丁味噌が抱える危機」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である浅井代表の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
株式会社まるや八丁味噌
代表取締役
浅井信太郎
1949年 愛知県生まれ。
1971年 東京農大卒業後、醸造会社に就職、1973年同社を退職。西ドイツに渡る。
1975年 ハンブルグ大学入学。
1981年 まるや八丁味噌入社。
2004年 代表取締役社長に就任。現在に至る。
伝統的な八丁味噌の醸造は江戸時代から岡崎八帖町(旧八丁村)の地で造る貴重な遺産であり、日本国内や世界に発信することは自分の使命と義務であると考え、八丁味噌の醸造の継続に取り組む。
1987年アメリカ有機食品認定団体O.C.I.Aの認定を受け、その後KOSHER、ECOCERT認定を受けこれを世界に発信。
現在世界約20カ国以上に八丁味噌を輸出。
社長就任後も自ら国内にて試食会・料理講習会を催し、また海外にも積極的に出向き、八丁味噌と日本の食文化の普及につとめている。
2007年同級生が作る三河産大豆と額田の山麓で酒造業を営む柴田酒造の仕込み水「神水」で八丁味噌の仕込みを実施、2009年10月限定販売開始し、現在まで継続中。
2008年から新規に吉野杉の材質で6尺大の木桶を仕入れ、2021年2月まで合計20本以上を新調した。
岡崎市観光協会会長にも就任し、地域の発展にさらに積極的に貢献する決意である。
第1部:トークセッション(株式会社まるや八丁味噌 代表取締役 浅井信太郎 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「海外への情報発信や伝統製法、まるや八丁味噌が抱える危機」などについて浅井代表よりお話しいただき、対談を通じて学びました。
ポイント
1. 醸造文化、日本文化を世界へ。自身の経験から始まった海外への情報発信
2. 代々受け継がれてきた製法。伝統を守りながら八丁味噌の認知を広める
3. 八丁味噌のGI制度における問題点。400年の歴史を守り抜くためには
1. 醸造文化、日本文化を世界へ。自身の経験から始まった海外への情報発信
情報発信を課題に感じている長寿企業が多い中、まるや八丁味噌では国内だけでなく海外への情報発信も積極的に行われており、国内外問わずより多くの人に八丁味噌について知ってもらうための取り組みが行われています。
元々、浅井代表は20代の時にドイツに住んでいた経験があり、そこでドイツ人はオーガニックや歴史、文化などの哲学に非常に関心があることを知ります。特に日本の歴史や文化などを聞かれた際に自分自身が日本の文化に対して深く理解できていないことに気づき、こうした経験が現在の国内外への情報発信へと繋がっています。
実際にまるや八丁味噌では、下記のような取り組みを行われています。
・海外の大学生を蔵元見学に案内
・香港のシティスーパーでデモ販売
・アメリカ・オランダ・ドイツなどの欧米の国々で行われている展示会に出展
・フランス料理人への講習を現地で行い、八丁味噌の使い方について伝授
・アメリカ有機食品認定団体OCIAやKOSHER、ECOCERTの認定を取得
これらの取り組みの結果、販売量全体の約10%を世界約20カ国もの国々に輸出するほど、海外でも八丁味噌が認知されています。
このように、まるや八丁味噌では浅井代表が入社して以降40年近く、国内外問わず丁寧な情報発信が継続されており、海外に日本の文化、醸造文化を知ってもらうために地道な努力を重ねられています。
2. 代々受け継がれてきた製法。伝統を守りながら八丁味噌の認知を広める
海外輸出など新たな取り組みがされている一方で、八丁味噌の製法においては江戸時代からほとんど変えず、実際の製法の記録は勘定帳や仕込帳という形で江戸時代から残されています。
また、製法に関する記録と同時に、勘定帳の最後のページには下記のような、まるや八丁味噌の信念三カ条が記されています。
1.質素にして倹約を第一とする
2.事業の拡大を望まず継続を優先する
3.顧客、従業員との縁と出会いを尊ぶ
こうしたまるや八丁味噌の信念を守り抜くと同時に、今後の展望について下記の3つを挙げられました。
1.江戸時代から顧客に約束してきた八丁味噌の伝統製法を継続し、同等の品質でお客様にお届けできるように務める
2.これをまるや八丁味噌とカクキュー八丁味噌の2社の蔵元で継続する
3.従業員と共に自負できる蔵造りを目指したい
浅井代表は「今まで仕込帳を通して受け継がれてきた信念や製法を次の世代に継承するとともに、従業員が誇りに思えるような蔵元を目指し、八丁味噌に対する理解を国内外に広めていきたい」とお話しいただきました。
3. 八丁味噌のGI制度における危機。400年の歴史を守り抜くためには
最後にまるや八丁味噌が抱えている危機についてお話しいただきました。
まるや八丁味噌は現在、日本のGI(地理的表示)保護制度に関する問題を抱えています。
GI制度は地域との結びつきによって生まれる農産品に対して「地域名+一般名称」という形で特定の表示をすることで、その食文化や作り手を保護するためにつくられた制度で、八丁味噌においてもその製法や食文化を守るためにGI制度が設けられました。
しかし、実際に農水省が定めた八丁味噌のGI制度の基準は、八丁味噌協同組合の定める基準とは大きく異なり、八丁味噌の食文化や作り手を守るはずの制度が、実際よりも簡単な製法でなおかつオーガニックでないものも八丁味噌という名の使用を認める内容になっています。
(※八丁味噌協同組合には株式会社まるや八丁味噌とともに、同じく愛知県岡崎市八帖町で江戸時代から八丁味噌を作り続けてきた「株式会社カクキュー八丁味噌」が所属)
その結果、江戸時代から約400年という長い歴史を持つまるや八丁味噌が、今後「八丁味噌」という名称を使用できなくなる可能性も生じており、八丁味噌の食文化を守る上で大きな問題点となっています。
そのため、まるや八丁味噌やカクキュー八丁味噌は、こうした農水省の取り決めに対して同意し難いものとしており、市民や消費者からも登録見直しを求める署名で約10万筆が集まるなど、まるや八丁味噌とカクキュー八丁味噌を支持する声が寄せられています。
農水省が実際よりも簡単な製法で八丁味噌をGI登録しようとしている背景には、海外により多く輸出したいという思惑などが考えられますが、一方で八丁味噌には江戸時代から続く400年という歴史の重みがあります。
それと同時に、八丁味噌には
・2年以上熟成させ、殺菌はしていない
・生味噌
・木桶で作っている
・微生物はそのままお届けしている
という特徴があるからこそ、国内でも国外でも八丁味噌を購入してくれている方々がいます。
こうした歴史や消費者の立場から考えて、農水省が定めるGI登録に同意してしまうとこれまで八丁味噌を購入し続けてくれている方々を混乱させてしまう恐れがあり、また400年同じ製法で作り続けてきた自社や八丁味噌そのものの歴史を裏切る形になってしまいます。
GI制度における問題点に対して、浅井代表は「色々な選択肢が考えられるが、八丁味噌を作り続けてきた会社の代表として、これまでの製法や歴史を守らなければいけない」と考えられ、八丁味噌の歴史を守るために日々尽力されています。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
質疑応答では、高梨理事長より「まるや八丁味噌の海外発信はすごく良い。今までの情報発信とともに、GI制度の課題点なども海外に投げると反応が返ってくると思うため、海外から支持を集めることで日本の行政を動かしていくと良いのでは」とお話しいただきました。
最後に後藤先生より、「日本の長寿企業は良いものを長い間作り続けている。日本の長寿企業に関わっている方は妥協することなくこれまでの信念を守り、そして日本の長寿企業の良さを国内外に知ってもらうことで、ファンを作っていくことが大事だと感じる。今後も頑張っていただきたい」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は12月7日に、1851年創業の吉村酒造株式会社の代表取締役会長である吉村正裕氏にご登壇いただきます。