【第39回100年経営研究会】歴史を踏まえながら変化を重ねることで持続可能な伝統工芸に(登壇者:1652年創業/株式会社道明)
2022年3月8日
2022年2月22日(火)、第39回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1652年に創業された株式会社道明の代表取締役である道明葵一郎氏をお迎えし、「伝統工芸をどのように紡ぎ発展させてこられたのか、グローバル化が進む中で海外展開をどのように考えているのか」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である道明代表の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
株式会社道明
代表取締役
道明 葵一郎(どうみょう きいちろう)
1978年6月15日東京都生まれ。
2004年私立早稲田大学理工学部建築学科大学院卒、2006年道明葵一郎一級建築士事務所を開設。
住宅や商業店舗の意匠設計を手掛ける。その傍ら株式会社道明にて組紐の製作に従事する。
2012年株式会社道明代表取締役に就任。立体構造としての組紐の新たな可能性を追求する。 2015年から組紐製のネクタイやアクセサリーなどを扱う洋装部門「DOMYO」を展開、世界に向けて組紐の普及と発展を目指す。
また、各地の歴史的組紐の調査と復元模造にも従事する。
第1部:トークセッション(株式会社道明 代表取締役 道明 葵一郎 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「伝統工芸をどのように紡ぎ発展させてこられたのか、グローバル化が進む中で海外展開をどのように考えているのか」などについて道明代表よりお話しいただき、対談を通じて学びました。
ポイント
1.衰退する伝統産業の中で、歴史を踏まえながら未来に続く企業へ
2.海外の組紐を知り、日本での組紐の普及に繋げる
3.【長寿の秘訣】時代に合わせて用途を変化させる
1.衰退する伝統産業の中で、歴史を踏まえながら未来に続く企業へ
奈良時代に仏教とともに伝来してきた組紐は、主に宗教儀礼の際に用いられていましたが、その後時代の変化とともに貴族の装束や刀の下げ緒、和装の帯締などに用途が変わりながら、持続的に使用されてきました。
一方、1652年に創業した株式会社道明も、明治期に廃刀令と生活の西洋化によって組紐需要が大幅に減少した時には、美術工芸組紐に力を入れ、大正時代には機械化に取り組む企業が多い中であえて手仕事による組紐作りを継続するなど、これまでの高度な技術や伝統を維持しながら組紐需要の変化に対応してきました。
株式会社道明は、現在も全て手染め・手組みで組紐が作られており、約100名の専属職人を抱える企業です。
また、2022年で50周年を迎える組紐教室は、現在約400名の生徒が参加しており、組紐職人の高齢化を防ぎ、若い人たちに技術を継承できるように全国各地で運営されています。
さらに、正倉院を始めとする日本各地に伝わる歴史的組紐の調査研究及び復元模造も手掛けており、組紐に関する広範な資料と技術を保持されています。
このように株式会社道明では、歴史や伝統を踏まえながら高い技術によって革新を起こしてきたことで時代の変化に対応し、今日では組紐業界において競合のいない独自のポジションを確立されています。
2.海外の組紐を知り、日本での組紐の普及に繋げる
今回の研究会では道明代表の母である三保子氏にもお話しいただきました。
東京大学を卒業後、ヨーロッパや西アジアなどを渡りながら世界の組紐について研究された三保子氏は、これまでに大学や服飾博物館にて組紐に関する教育・研究活動に取り組まれてきました。
現在は、組紐教室と組紐資料室の2つを軸に活動されており、組紐教室ではYouTubeも活用しつつ、組紐の伝統や新柄を紹介しながらその魅力や組むことの楽しさを伝え、技術者や講師の養成、デザインの開発などにも取り組まれています。
また組紐資料室では、書籍や写真、実物資料などの保存・継承・調査研究を進めるとともに、洋装や使用用途の開発など、家業に新風を吹かせるための創造的な取り組みもされています。
3.「地球環境」と「事業継続」という2つの視点から見る株式会社道明の”長寿の秘訣”とは
道明代表は家業の歴史から、「地球環境」と「事業継続」という2つの視点で長寿経営の秘訣についてお話されました。
組紐は最小限の資源で長時間の楽しみを得ることができるため、モノ消費とコト消費のバランスが取れた事業です。
なおかつそれを産業革命以前からある技術によって手仕事で適量生産を維持することによって、炭素や廃棄をほとんど出さず、地球環境に優しい持続可能な組織を確立しています。
また、組紐の技術を保持し発展させながら、時代に合わせてその用途を転換させていくことで1500年続く産業を作り上げ、それとともに毎年徹底的に技術者を育成してきたことによって、戊辰戦争や関東大震災などで店舗が消失した際でも事業を継続することができています。
さらには巨大な工場や設備を取り入れることなく、小さい組織・設備で、緻密な組紐作りをすることによって、そこから編み出される組紐の向上にも取り組まれてきました。
2015年には新たに洋装部門をスタートし、組紐を用いたコンテンポラリーなデザインのネクタイ、アクセサリー、ベルトなどを通して、世界中の人に組紐の良さや美しさを知ってもらうための取り組みもされています。
道明株式会社は、地球環境の視点からすると持続可能な企業であるとともに、歴史を踏まえながら長年の積み重ねによる高度な技術で組紐の新しい可能性を次々と探ってきたことで、長寿経営を実現されています。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
質疑応答では、「大正期に多くの企業が機械化を進める中で、”機械化をしない”という判断をした背景や理由」について質問があり、「手織りと機械織りは全然仕上がりが異なり、道明の場合は芸大や東大、国立博物館、画家などの方々から高度な知識や技術の教えを受けていたので、手作りに自信があったからではないか」と三保子氏よりご回答いただきました。
最後に後藤先生より「当機構はそれぞれに特色がありお手本になる長寿企業にご助力をいただいているが、道明株式会社も今までの長寿企業と違った面で、非常に大きなお手本になると感じる。本日はありがとうございました」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は3月8日(火)に、1918年創業の株式会社京屋染物店の代表取締役である蜂谷悠介氏にご登壇いただきます。