【第45回100年経営研究会】着物は体の”漢方薬”。着物文化を承継・発展させる銀座いせよしの取り組み(登壇者:銀座いせよし)
2022年6月1日
2022年5月24日(火)、第45回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、明治11年創業の呉服店「伊勢由」が母体の、銀座いせよしの社長・千谷美恵氏をお迎えし、「家業は呉服業界をどのように見ていて、どのような経緯で家業に戻ることとなったのか。」「なぜ独立するに至ったのか。」「和服の文化を承継・発展させるいせよしの取り組みと千谷氏のこれまでの意思決定の背景や今後の展望」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは、当機構代表理事で、日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。
登壇者の紹介
今回の登壇者である千谷社長の経歴からご紹介いたします。
<登壇者プロフィール>
銀座いせよし 社長
千谷 美恵(ちたに・みえ)氏
実家は明治元年に新川にて創業し、明治11年から日本橋で商いを続ける老舗呉服店「伊勢由」。その三女として生まれる。幼少の頃より和服に親しみ、アメリカの銀行「シティバンク」に勤務したことで、日本文化の重要性を再認識。実家の家業を継ぐことを決意した。その後、先祖の意志を継ぎ、古くからある暖簾を守りたいとの思いが強くなり、「伊勢由」と方向性が異なってきたことから独立起業。独自にデザインした着物や帯、選別した品物を取り揃え、着方や組み合わせのアドバイスなどを行っている。
第1部:トークセッション(銀座いせよし社長 千谷美恵 氏 × 後藤俊夫 代表理事)
今回のトークセッションでは、「家業は呉服業界をどのように見ていて、どのような経緯で家業に戻ることとなったのか。」「なぜ独立するに至ったのか。」「和服の文化を承継・発展させるいせよしの取り組みと千谷氏のこれまでの意思決定の背景や今後の展望」などについて道明代表よりお話しいただき、対談を通じて学びました。
ポイント
1. 「伊勢由」の創業と千谷氏の家業継承
2. 家業継承の背景にある3つのきっかけ
3. 着物文化の継承と「銀座いせよし」の設立
1. 「伊勢由」の創業と千谷氏の継承
母体である「伊勢由(いせよし)」は、明治11年に東京・日本橋で酒造会社として創業しました。
和の関連に業種転換をしたのは2代目の時代で、2代目より、浴衣やかんざし、帯留めなどの和小物を取り扱うようになったそうです。
そして、登壇者・千谷氏の祖母の代(3代目)に呉服店へと転換し、140年以上の間、老舗呉服店「伊勢由」は屋号を受け継いできました。
今回の登壇者・千谷美恵氏は、昭和8年に「伊勢由」の三女として生まれました。
幼少時より着物に対する愛着心を強く持っていた同氏は、大学時代の米・ウェスタンミシガン州立大学への留学や、シティバンクでの勤務経験より、日本文化の重要性を再認識し家業を継ぐことを決意し実家に戻られます。
その後、着物の良さや日本文化の素晴らしさを、若い方や着物を知らない方に向けて伝えたいという思いから、新たに「銀座いせよし」を創業し現在に至ります。
2. 家業継承の背景にある3つのきっかけ
千谷氏が家業を継承した背景には、3つのきっかけがあります。
一つ目は、海外留学と外資系企業での勤務経験。
当時は、先代から承継に関する話をされたことはなく、社会に出て働くことを勧められていたそうです。
しかし、留学や外資系企業で多種多様な方と触れ合う中で、日本文化に対する興味が醸成されました。
また、品物がない金融業界とは違って、品物に携われる呉服店に魅力を感じるようになったようで、家業を継ぐことを決心されました。
二つ目は、祖母・先祖の影響。
着ることや畳むことなど、着物に関する様々なアドバイスをくれた祖母の影響もあり、幼少期から着物に対する愛着を持っておられました。
また2代目の兄弟に、明治時代に数多くの優品を残した木工芸家・木内半古氏がいたこともあってか、着物だけでなく、和の小物への愛着も深かったようです。
三つ目は、人には必ず生きている役割があるということ。
長年金融に携わる中で、金融業界には他に適切な人がいっぱいる反面、呉服業界には適切な人間が少ないと思うようになったと言います。
またそれに加えて、多様な人と交流をする中で、日本文化や着物に対する興味関心が深まったこともあり、自身の役割が着物にあると考え、家業に継がれることを決心しました。
3. 着物文化の継承と「銀座いせよし」の設立
「通気性の良い着物は、高温多湿な日本に適した服装であり体の漢方薬である。」
「SDGsやサスティナブルという言葉が取り立たされている今、何代にもわたって着続けることができる着物は、まさにサスティナブルな服装そのものでもある。」
「このサスティナブルな服装・着物を着用することで、夏場の体感温度を下げ、環境保全にもつなげられるのではないか。」
千谷氏は、着物に対して上記のように考えておられます。
また、現代では手染めの浴衣が少なくなってきており、手で染めた着物の良さが伝えづらくなってきていますが、千谷氏は、着物の良さを伝えたいという思いを強く持っておられます。
着物に数多くの魅力があることを、発信・継承していきたいという思いから、千谷氏は、母体である「伊勢由」から独立して「銀座いせよし」を創業されました。
第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)
最後に後藤先生より「前半の家業継承の話と、後半の独立時の話を関連づけて聞くことで、意味深く感じるお話が非常に多かった。世界から日本文化が注目されている今、着物に対する注目も集まってくるのではないか。着物文化を発信する千谷氏の今後にも注目をしていきたい。」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。
次回は6月16日(火)に、1907年創業の大野建設株式会社の代表取締役社長である大野哲也氏にご登壇いただきます。