活動報告

【第47回100年経営研究会】革新すべき場所を定め、さらに永く続く伝統を築く(登壇者:1617年創業/有限会社萬年堂本店)

2022年7月22日

2022年6月28日(火)、第47回100年経営研究会を開催いたしました。

今回の研究会では、1617年に創業された有限会社萬年堂本店の代表である樋口 喜之氏をお迎えし、「伝統や歴史をどのように捉えられているのか」「新たな取り組み」「イノベーションに対する考え方」などについてお話しいただきました。

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である樋口氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
銀座 萬年堂本店
13代目
樋口 喜之(ひぐち よしゆき) 

 

1968年 東京都港区赤坂生まれ。
成蹊大学経済学部卒業。高校・大学時代は水球に打ち込む。
大学卒業後アパレル企業に就職、1997年銀座萬年堂本店に入社。
1999年より13代当主となる。
仕事以外では、茶道、サーフィン、自転車などを楽しみ、また銀座くらま会からす組(若手の集まり)の一員として、邦楽、踊りなどにも挑戦中。
「美味しいもの、おいしいお酒に目がありません。」

 

 

第1部:トークセッション(有限会社萬年堂本店 13代目 樋口 喜之(ひぐち よしゆき)氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「伝統や歴史をどのように捉えられているのか」「新たな取り組み」「イノベーションに対する考え方」などについて樋口氏よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント
1.3年で家業を引き継ぎ。萬年堂の400年以上続く歴史について
2.苦難に直面して感じた”長寿企業だからこその強み”とは
3.変えるべき伝統、変えなくていい伝統を見極め、より多くの人に気づいてもらうための努力を

 

 

1.3年で家業を引き継ぎ。萬年堂の400年以上続く歴史について

銀座 萬年堂本店は1617年、京都寺町三条にて「亀屋和泉」を名乗り創業され、創業当初は御所や所司代、寺社等にお納めするためのお菓子を作られていました。

そして、明治5年には遷都を受けて東京八重洲に店舗を移転し、「亀屋和泉萬年堂本店」の看板を掲げて営業されていました。

東京への移転後は、関東大震災や戦争の影響により八重洲の店舗が消失してしまうといった苦難もありましたが、八重洲以外に銀座にも店舗を構えていたことから、現在は銀座に本店を構えてお菓子を販売されています。

樋口氏が子供の頃は、実家の隣に和菓子を作るための工場があったこともあり、お菓子を作られていく工程を見たり、余ったお菓子を食べたりできるのが好きだったといいます。

一方で子供の頃から、父であり12代当主である先代は家業の承継に関して何も言わず、「何でも好きにしなさい」という姿勢だったことから、樋口氏は大学卒業後、アパレル企業に就職されました。
就職した会社が自身に合っていたこともあり、就職した当初は「アパレルで10年、20年働いた後に、家業に戻るんだろうな」と考えられておりましたが、樋口氏が28歳の時、先代が病気を患って入院したことをきっかけに就職したアパレル企業を退職し、家業に戻ることになります。

先代の病気が完治した後、共に家業を経営されておりました。
しかし、その3年後に再び先代ががんを患って亡くなられたため、そこからは13代目当主として「萬年堂」の歴史を紡がれています。

 

 

2.苦難に直面して感じた”長寿企業だからこその強み”とは

新型コロナウイルス感染症の流行は、和菓子業界にも影響を与えています。
特に「萬年堂」では、店舗以外にも結婚式・お茶会・接待などで和菓子を購入をしていただく、機会がありましたが、これらの行事が新型コロナウイルスの影響で全て中止になったことで、約半分の売上がなくなりました。


しかしこういった状況でも、世の中が少しでも明るくなるようにお花のデザインをした和菓子を何種類も作ったり、若い人たちにも食べてもらえるようにデザインを工夫したり、新型コロナウイルスが流行する前の生活に戻らないということも想定しながら、新たな取り組みをされています。

また、2022年9月には、今の店舗の3倍の広さがあるところに移転予定で、喫茶を併設してより生菓子と抹茶を楽しんでもらえる空間にするために、銀座店舗の立て直しを進めておられます。


新型コロナウイルスの流行による苦境でも前進し続けられる理由については「先代たちが『東京への遷都』『関東大震災』『戦争』といった苦難を乗り越えてきたという400年以上の歴史があるからこそ、自分もへこたれてはいられない、やらなければいけないと考えることができた」と、長い歴史を持つ長寿企業だからこその強みについてもお話しいただきました。

 

 

3.変えるべき伝統、変えなくていい伝統を見極め、より多くの人に気づいてもらうための努力を

最後に、イノベーションに対する考えや今後の展望についてもお話しいただきました。


和菓子業界では後継者不足や若者の和菓子離れなどの課題もある一方で、業界の動向としては複雑なデザインの和菓子が売れつつあるなど、老舗だからといって胡坐をかいていられない現状になっています。

こうした和菓子業界の厳しい状況に対して、樋口氏は2つの考え方を持たれています。
それは、「伝統とは変わらない何かを維持することも大事」「伝統なんて壊してしまえばいい。それで壊れるぐらいだったらまだ伝統になれていない」という考え方です。


「伝統とは変わらない何かを維持することも大事」という考え方の裏付けとして、延暦寺にある「不滅の法灯」を挙げていました。
「不滅の法灯の火は、新しい油を毎日足さないと消えてしまう。つまり、無理やり伝統を壊して新しい何かを作るのではなく、伝統に新しいアイデアを加えて異なる何かに変えていくことが、永く続く企業を作る上で大事」と考えておられました。

一方で、「伝統なんて壊してしまえばいい。それで壊れるぐらいだったらまだ伝統ではなく、伝統とは壊そうとしたって壊れないぐらい芯のあるもの」といった考えも持たれています。


こうした2つの考え方から、これまで作ってきた和菓子の伝統を変えてはいけないわけでも、また、これまでとは全く異なる新しく作り替え無くてもよいと言うことができます。
実際、「萬年堂」では素材や製法、味といった伝統を維持しながら、デザインを変えてイベントで販売しただけで若い人たちに一気に売れるようになり、そこから店舗での購入につながったという事例もあるとお話しいただきました。


伝統を壊さずとも、本物である限り、食べてもらえればその価値を分かってもらうことができます。
しかし、食べてもらうためにはお客さんに気づいてもらう努力が大事になります。
より強固な伝統を作っていくためには、変えるべきところ・変えなくていいところを整理した上で、より多くの方々に気づいてもらうための情報発信が欠かせないと言うことができます。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では、以前ご登壇いただいた「銀座いせよし」の千谷社長から「最近は長持ちするお菓子も多いが、萬年堂さんのお菓子は生菓子であることから、その日に食べるという特別感がある。この生菓子特有の特別感をどう伝えていけるか」という質問があり、「生菓子は日持ちしないからといって、販売エリアを狭めるのではなく、とにかく動いて、やってみることが大事だと思う。そのためには、お客さんに知ってもらうという努力も必要だが、売る側が自分たちの商品に対して変な先入観を持たないということも大事」と樋口氏よりご回答いただきました。

最後に後藤代表理事より「喜のつゆのように、これからもたくさんのヒット商品が出ることを期待しています。樋口社長、本当にありがとうございました」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は7月19日(火)に、1907年創業の側島製罐株式会社の6代目就任予定である石川貴也氏にご登壇いただきます。