活動報告

【第51回100年経営研究会】みやじ豚から事業承継問題へ。家業こそ地域の文化・伝統・歴史を繋いでいくもの(登壇者:1916創業/株式会社みやじ豚)

2023年3月17日

2022年8月23日(火)第51回100年経営研究会を開催いたしました。

 

今回の研究会では、1916年(大正5年)に創業された株式会社みやじ豚の代表取締役社長である宮治 勇輔(みやじ ゆうすけ)氏をお迎えし、「株式会社みやじ豚の創業」「現在の取り組み」「今後の展望」などについてお話しいただきました。

 

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。



登壇者の紹介

今回の登壇者である宮治氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
株式会社みやじ豚 代表取締役社長
NPO法人農家のこせがれネットワーク 代表理事
家業イノベーション・ラボ 実行委員
宮治 勇輔(みやじ ゆうすけ) 氏

 

1978年、湘南地域の小さな養豚農家の長男としてこの世に生を受ける。
2001年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。
営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げ、大阪勤務などを経て2005年6月に退職。
実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し、代表取締役に就任。
生産は弟、自身はプロデュースを担当し、独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。
みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。
みやじ豚は順調に推移するも規模拡大をよしとせず、日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、都心で働く農家のこせがれの帰農支援を目的に、2009年にNPO法人農家のこせがれネットワークを設立。
2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。
2015年より丸2年間、農業の事業承継を研究する、農家のファミリービジネス研究会を主宰。
JA全農と『事業承継ブック』を制作し、全国のJAを通じて1万3千部を配布。
事業承継の研究と実践を推進するべく、2017年より家業イノベーション・ラボを立ち上げる。
現在は、事業承継をテーマに、農業界限らず中小企業の経営者及び後継者向けに講演及びセミナーを行う。
全国47都道府県で農業経営及び地方創生における数百回の講演実績あり。
DIAMOND・ハーバード・ビジネス・レビュー「未来を創るU-40経営者20名」。
著書に『湘南の風に吹かれて豚を売る』。



第1部:トークセッション(株式会社みやじ豚 代表取締役社長 宮治 勇輔(みやじ ゆうすけ)氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「株式会社みやじ豚の創業」「現在の取り組み」「今後の展望」などについて宮治氏よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント
1.【創業】1次産業を「かっこよくて、感動があって、稼げる(=3K )」産業に
2.「みやじ豚」の画期的なビジネスモデルと旨さの秘訣
3.「家業イノベーション・ラボ」で取り組む課題と今後の展望


 

1.【創業】1次産業を「かっこよくて、感動があって、稼げる(=3K )」産業に

「株式会社みやじ豚」は、1916年に初代・倉吉氏が本家より独立して農業を始め、1966年に父である昌義氏が農業から養豚業を専業としたのが始まりです。

 

宮治氏はもともと家業を継ぐ気はありませんでしたが、「みやじ豚」を始めようと考えた原体験は大学2年生の頃に開催したバーベキューにあります。

宮治家で育てた豚肉を持ち込んだところ他に参加していた人たちに絶賛され、「みやじ豚」のポテンシャルの高さに気付きました。

 

大学卒業後は株式会社パソナに入社されますが、毎朝行っていた読書を通して農業に対する興味関心が湧き、同時に現代の農業には下記の2つの問題があることを認識。

1.値段が相場と規格によって決まるため、味は評価の対象にならないこと
2.生産者の名前が表記されることなく流通している商品が多いこと

この2つの問題を解決することで、1次産業をかっこよくて、感動があって、稼げる、”3K産業”にしたいとの想いが出始め、パソナを退職後、家業を継承されました。

 

その後、2006年に「株式会社みやじ豚」として法人化し、弟である大輔氏が生産現場を、宮治氏がプロデュースを担う形で養豚業を営まれています。

 

2.「みやじ豚」の画期的なビジネスモデルと旨さの秘訣

みやじ豚が売上を伸ばした要因は、ビジネスモデルと旨さの秘訣にあります。

 

まずはビジネスモデルに関してです。

みやじ豚では「1頭の豚で2回商売する」という、農業界でも画期的なビジネスモデルを採っています。

養豚農家が育てた肉は通常、下記の流れで顧客のもとに届けられます。

1.養豚農家
2.農協
3.と畜場
4.食肉問屋
5.顧客

しかし、みやじ豚では上記の流れに加えて、自社のオンラインショップ経由で顧客から注文を受け、注文分を「4.食肉問屋」から再度仕入れて、顧客に発送。

そのため、オンラインショップで顧客から受けた注文金額と、食肉問屋から仕入れ額の差額が粗利として残ります。

こうした「農協への出荷」+「オンラインショップでの販売」という「1頭の豚で2回商売する」ビジネスモデルが功を奏し、上手く売上を伸ばすことに成功しました。

 

次に、旨さの秘訣です。

みやじ豚では、美味しくするための秘訣として下記の3つを工夫されています。

・少ない頭数を丁寧に育てること
・麦に米をブレンドした良質な飼料を使用(豚に与える飼料はとうもろこしが一般的)
・単一農場単一生産者にこだわる

その他、マーケティングの一環としてバーベキューを毎月開催するなどしながら、3年で当初の5倍の売上を達成しました。

 

こうした取り組みが評価されて、2008年には農林水産大臣賞を受賞

みやじ豚の成分分析では、AAAランクを記録する規格外の旨味成分が含まれていることも分かり、販売だけでなく味や品質にもこだわって経営されています。

 

3.「家業イノベーション・ラボ」で取り組む課題と今後の展望

宮治氏は、「みやじ豚」を立ち上げてから3年後に、農業に取り組む仲間を増やそうとNPO法人「農家のこせがれネットワーク」を設立されています。

新規就農者を増やすよりも実家が農家である人に農業を継いでもらうことにこだわり、現在では就農者減少の一因である「事業承継問題」にも注目されています。

 

こうした問題を解決するために、下記3社共催で「家業イノベーションラボ」を設立

・「NPO法人農家のこせがれネットワーク」
・「NPO法人エティック」
・「株式会社のNN生命保険」


志を同じくする仲間とともに老舗企業の知見や新技術を学び、「事業承継問題」や「顧客の高齢化・利益率の低下・ビジネスモデルの劣化による企業の消費期限切れ」などの解決に取り組まれています。

さらに、勉強会やセミナー、経営相談会を実施しながら、商品開発のノウハウや外部人材活用に関する情報を共有し、家業を継ぐ人たちへの支援も行なわれています

 

今後も家業の後継者との繋がりを作りながら、地域の文化・伝統・歴史を繋ぐ役目を担う、家業の火種を守っていきたいとお話しいただきました。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

質疑応答では「日本の食料自給率をあげるためには一次産業の底上げが必要だが、現状底上げできていない。何が問題なのか」と質問があり、「日本では農業への補助金が少なく農業界が疲弊しているのが問題。また、土地利用業は広大な土地が必要だが、日本ではそういった土地は少なく、農業がしづらいという側面がある」と宮治氏よりご回答いただきました。


最後に後藤先生より「イノベーションのやり方を工夫してリスクの少ない形にするということ。また、家業こそ地域の文化・伝統・歴史を繋いでいくものであるということを学んだ」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。


次回は9月15日(木)に、株式会社門間箪笥店の代表取締役である門間 一泰(もんま かずひろ)氏にご登壇いただきます。