活動報告

【第58回100年経営研究会】生産量日本一の地域から、ネクタイを通して日本の歴史・文化を継承する(登壇者:1916創業/山崎織物株式会社)

2023年6月2日

2023年1月24日(火)、第58回100年経営研究会を開催いたしました。

 

今回の研究会では、1916年に創業された山崎織物株式会社の4代目である山崎博之(やまざき ひろゆき)氏をお迎えし、「山崎織物の創業」「自社ブランド「富士桜工房」の取り組み」「今後の展望」などについてお話しいただきました。

 

また、100年経営研究機構からは当機構代表理事で日本経済大学大学院特任教授の後藤俊夫先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である山崎氏の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
山崎織物株式会社 4代目
山崎 博之(やまざき ひろゆき)氏

 

1985年 山梨県生まれ。
埼玉大学を中退後、帝国ホテル、椿山荘など都内ホテルの宴席スタッフとして勤務。
2011年に家業へ入り、製品ブランド「富士桜工房」を立ち上げ、日本のものづくりを念頭に、和の文化や伝統的デザインを取り入れた製品開発に取り組む。

 

 

 

第1部:トークセッション(山崎織物株式会社 山崎 博之(やまざき ひろゆき)氏 × 後藤俊夫 代表理事)

今回のトークセッションでは、「山崎織物の創業」「自社ブランド「富士桜工房」の取り組み」「今後の展望」などについて山崎氏よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント
1.ネクタイ生産量日本一の山梨県で挑戦を続ける山崎織物
2.自社ブランド「富士桜工房」で日本の心を受け継ぐ
3.提案力と企画力を駆使し日本の繊維業界を牽引

 

1.ネクタイ生産量日本一の山梨県で挑戦を続ける山崎織物

山崎織物株式会社は、山梨県南都留郡西桂町で織物製造・販売をされている長寿企業です。

1916年に初代・幸蔵氏が創業し、絹織物の仲介業を行ったのが始まりとなっています。

1941年には織物の自社生産も始めますが、第二次世界大戦の激化に伴い廃業し、設備一切を政府に拠出して軍事産業工場になります。

その後、1945年に軍事産業を廃業し、翌年から織物業を再開。

「山崎織物」として裏地の生産を始め、洋装化に伴ってネクタイの需要が高まっていくのに目をつけ、徐々にネクタイ生地の生産に特化していきました。

 

そして、1984年に3代目・泰洋氏が就業し、1990年に「山崎織物株式会社」を設立します。

その後は婦人服地や雑貨などの開発、「モルフォテックス」という新素材を使用した商品開発なども始め、時代に合わせて徐々に商品も多様化させてきました。

しかし、1990年代の繊維関税の撤廃によって多くの繊維製品の生産拠点が海外に移り、国内ではクールビズの定着化によってネクタイ需要が軽減するなど、業界の将来を楽観視できない状況が続きました。

 

そこで山崎織物は、新分野への事業転換を決断。

製造・直販・卸売の自社ブランド製品開発やECサイトの構築運営、立地を生かして富士山を訪れる観光客向け商品の販売、地域産業活性化プロジェクトなどに取り組まれてきています。

また、現在は郡内織物の和の文化や伝統的デザインを取り入れた製品開発も手掛けており、ネクタイの生産量日本一を争う山梨県で、郡内織物1000年の歴史を次の時代に紡いでおられます。

 

 

2.自社ブランド「富士桜工房」で日本の心を受け継ぐ

「山崎織物株式会社」は「富士桜工房」という、ネクタイに日本の伝統的な色遣いや模様を取り入れ、洋装の中に和と洋を融合させることを主軸にした自社ブランドを2011年に立ち上げました。

四季の草花を華やかにデザインしたものや、山梨をモチーフにしたデザインなど6つのテーマに分けて、和の模様を取り入れたネクタイを製造・販売しています。

 

さらに、模様だけでなくネクタイとしての機能が優れている点も魅力です。

「富士桜工房」では、形が整いやすく締め心地が良い上質なシルク生地を使用する「Japan quality(日本製品質)」と、日本の伝統的な色使いや模様を取り入れ裏勝りにもこだわった「Japanese classical(和のデザイン)」の2点を、上手く融合させています。

そのため、大切な方やお世話になった方へのプレゼントとしても人気です。

 

このように日本の心を受け継ぐことをコンセプトに、「助け合い、調和し、共に困難を乗り越える」という日本の歴史文化の神髄を、ネクタイを通して表現されています。

 

 

3.長い歴史の中で培ってきた提案力と企画力を駆使し創業200年へ

最後に繊維業界の傾向と、山崎織物の今後の展望についてもお話しいただきました。

繊維業界は産地間競争が激しく、提案力と企画力がなければ生き残れないのが特徴です。

そのため、産地全体を俯瞰して見ると、大量生産で価格勝負の企業は淘汰されています。

対して、会社の資源を有効に使いながら企画・提案できることが長寿の秘訣とも考えられます。

 

また、業界全体の動向として、人々のネクタイ離れが進み、ネクタイの市場自体が縮小していくことが懸念される一方で、嗜好品としてのネクタイ需要が高まってきています

こうした業界全体の傾向に対し、山崎氏は”ニッチな需要に特化して商品を発信していくこと”を今後の展望として考えておられます。

山崎織物には長年、ネクタイ生地の生産に特化して製造・販売してきたノウハウがあるため、こうした長寿企業だからこその技術力の高さを活かし、ネクタイを通して日本の歴史文化を継承していきたいとお話しいただきました。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

最後に後藤先生より「一つ一つのネクタイにストーリーがあり、人々がそのストーリーに価値を求めるということに繋がるといい。技術的な対応力があるからこそ、どこに焦点を定めてストーリーのあるものを提供するのかが、大事になってくると思う。本日はありがとうございました」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は2月14日(木)に、関谷醸造株式会社の代表取締役である関谷 健 (せきや たけし)氏にご登壇いただきます。