第22回研究会「公益資本主義と100年経営」
2019年10月16日
すべての社中に等しく貢献する「公益資本主義」
公益資本主義とは、アライアンス・フォーラム財団 代表理事の原丈人氏が提唱する本来のあるべき資本主義の指標です。公益資本主義では、社員・顧客・仕入先・地域社会・地球といったすべての”社中(しゃちゅう)”に貢献することにより企業価値が上がり、その結果として株主にも利益をもたらすと考えています。公益資本主義の実現に必要不可欠な経営の要素としては、下記の3つが挙げられます。
①企業の持続可能性
②分配の公平性
③事業の改良改善性
これらが整備されることによってROE(自己資本利益率)に代わる新しい企業価値を定義することできるとしています。
また「企業は社会の公器」という考え方を軸とし、「企業は株主のもの」「数字がすべて」という経営者の勘違いを正し、社中と株主に等しく貢献していくことが特徴です。
期待される、日本発の公益資本主義
公益資本主義の基本的な考え方をお話した後、神永さんは株主資本主義による社会問題について言及しました。株主資本主義は激しい格差社会を生み出しました。例えば、アメリカン航空では破綻を防ぐために客室乗務員が340億円の報酬削減に賛同しましたが、一方で経営陣は200億円を超える株式ボーナスを受け取っていました。英銀大手のバークレイズでは最大1万2千人の人員削減を実施し、一方で投資銀行部門のボーナス支払い増額が前年比で13%増加しました。従業員への還元が年々減少する一方で株主への還元を大幅に増加させる企業が増加し、社会全体の格差が広がっています。
現在では、国家の歳入よりも売上高が大きな企業が複数存在しています。このような格差社会は、紛争・民主主義の機能不全・実体経済の虚業化などの社会問題を生んでいます。
神永さんは、原丈人さんとともに公益資本主義を日本に浸透していく活動を行っていますが、「中長期的な視点」や「公平性を重視する視点」は本来日本の土壌として根付いているものだと強調しました。それは近江商人の「三方よし」や各老舗企業の家訓として今に受け継がれています。神永さんが所属していた住友グループでは、初代住友政友の事業精神『自利利他公私一助』を400年以上大事な指標として掲げています。日本発の公益資本主義が世界へインパクトを与えるはずだと神永さんは投げかけました。
研究会修了後は講師を交えて懇親会を行いました。講演では聞くことのできなかった神永さんと原丈人氏との出会いや、神永さんが住友精密工業時代に成し遂げた偉業、若手に期待することなどをお伺いすることができ、大変有意義な場となりました。
次回は、2019年12月6日に株式会社大川印刷 代表取締役の大川哲郎さんを講師に迎え、「100年企業が実践するSDGs」をテーマに研究会を開催いたします。是非奮ってご参加ください。