活動報告

【第31回100年経営研究会】自社の存続だけでなくかるた文化の継承も担う大石天狗堂の新たな挑戦(登壇者:1800年創業/株式会社大石天狗堂)

2021年10月29日

2021年10月26日(火)、第31回100年経営研究会を開催いたしました。
今回の研究会では、1800年に創業された株式会社大石天狗堂の代表取締役である前田直樹氏をお迎えし、「かるたの歴史・文化や時代に合わせた商品開発、現在の取り組み」などについてお話しいただきました。
また、100年経営研究機構からは当機構顧問で静岡県立大学教授の落合康裕先生がトークセッションの相手として登壇し、長寿企業の秘訣について学びました。

 

 

登壇者の紹介

今回の登壇者である前田社長の経歴からご紹介いたします。

 

<登壇者プロフィール>
株式会社大石天狗堂
代表取締役社長
前田直樹

 

1979年、京都市出身。
大学を卒業後他業種にて営業等の経験を積み2007年大石天狗堂入社。
営業部にて商品企画、販売等多岐にわたり担当。
取締役常務を経て2010年4月より現職。創業者から数えて9代目にあたる。
同社の代表商品として尾形光琳が描いた百人一首を復元した「光琳かるた」を製作・販売している。

 

 

第1部:トークセッション(株式会社大石天狗堂 代表取締役 前田直樹 氏 × 落合康裕 顧問)

今回のトークセッションでは、「かるたの歴史・文化や時代に合わせた商品開発、現在の取り組み」などについて前田社長よりお話しいただき、対談を通じて学びました。

 

ポイント

 

1. かるた文化とともに継承されてきた創業200年の歴史
2. かるた業界の現状。市場が縮小する中でどのようにして生き残っていくか
3. 大石天狗堂の今後の構想と事業承継について

 

 

1. かるた文化とともに継承されてきた創業200年の歴史

かるたはもともとポルトガルの船員たちによって舟での暇つぶしとして使用されており、安土桃山時代に銃やカステラなどとともに日本に入ってきました。
日本に最初に入ってきたかるたは「南蛮かるた」と呼ばれており、その後は国産化によって「天正かるた」、現在も製造販売されているかるたでは最古となる「うんすんかるた」といったかるたが国内で作られるようになります。
また、大石天狗堂は1800年に創業しており、かるたが賭博に使用されていたことから幕府によって禁止令が出されたため、表向きは米問屋、裏ではかるた屋を並行して経営していた時期もありました。

 

その後、かるた禁止令から逃れるために花札が使用されるようになりましたが、幕府からかるたに続き花札も禁止されるなどの出来事もありました。後に伊藤博文によってかるた税ができたことで、かるたを公に販売することが可能となっています。

 

そして、それに伴って3代目である大石蔵次郎氏が1891年に正式にかるた屋を始めています。
もともと日本では平安時代から百人一首で遊ばれていたこともあり、百人一首と海外から入ってきたかるたが合わさって、かるたの百人一首もできています。

 

そこから、明治時代には百人一首の遊びを競技化しようという動きがすでに起こっており、それが現在の競技かるたに繋がっています。
大石天狗堂は現在、公式競技で使用される百人一首の製造を担っており、漫画『ちはやふる』の影響から競技人口が増加しているかるた業界に大きく貢献されています。

 

 

2. かるた業界の現状。市場が縮小する中でどのようにして生き残っていくか

『ちはやふる』によってかるた競技人口が増加したものの、新型コロナウイルスによる競技の中止や電子ゲームの普及などによって、年々かるたの出荷数は減少しています。
大石天狗堂ではかるた以外にも囲碁や将棋用品も販売されていますが、『ちはやふる』等の漫画や、藤井聡太氏の活躍によってかるたや将棋の競技人口が伸びているように、かるた・囲碁・将棋などの商品販売は外的要因によって大きく左右されます。
このような現状を打破するために、前田社長は教材としてかるたや囲碁、将棋を販売することで教育関係に路線を変化させようと取り組まれたり、書籍を通してかるた等を普及させようとしたりもされています。

 

その中で最も反響があったというのが、アニメグッズの作品としてのかるたの販売です。
ジブリ作品を作っている会社から依頼があったことから、スタジオジブリとのコラボレーションでジブリ作品の登場人物などが描かれているかるたを販売したところ、今でも継続的に販売へ反響があり、そこから名探偵コナンなど他のアニメとのコラボにも繋がっています。
また、これまではOEMとして製造することがほとんどであったものの、現在は自分たちでライセンスを取得してアニメや漫画に特化したオリジナルかるたの作成も始められています。
このようにかるた市場が縮小していく中でも、大石天狗堂の存続だけでなく代々受け継がれてきたかるた文化を継承するべく、日々新たな取り組みがなされています。

 

 

3. 大石天狗堂の今後の構想と事業承継について

最後に、今後の構想や事業承継についても前田社長にお話しいただきました。
先述したように、大石天狗堂は教育関係に売り先を変えたりアニメグッズとして展開されたりなど、様々な新しい取り組みをされていますが、まずは大石天狗堂の主軸となる商品・サービスを作って、次の世代にもバトンタッチしていきたいと前田社長は言います。
特に昨今は、電子ゲームの普及によってかるた等で遊ぶ機会が減ってきているという傾向が強くありますが、一方で、かるたには1人では遊べないからこそ家族とのコミュニケーションに繋げられるという良さがあります。
また、こういったかるた文化の良さを伝えていくと同時に、自身が主軸となるサービスを作ることで、自分もしくは次の世代が新しいことに挑戦しやすいような環境を作っていきたいとお話しいただきました。

 

 

第2部:質疑応答・総括(総括・学びのポイントを整理)

最後に落合先生より、「大石天狗堂が担っているのは自社の存続だけでなく、かるたや花札という文化も継承されている。業界自体も多くの会社が無くなっている中で、大石天狗堂は今後もかるたや花札の文化を担っていく重要な役割を持たれているのではないかと感じた。ぜひ今後も様々な挑戦をしていっていただきたい」と総括をいただき、今回の研究会は終了いたしました。

 

次回は11月9 日に、1910年創業の大堀相馬焼 松永窯 4代目の松永武士氏にご登壇いただきます。